癌治療において、投与した薬剤が癌へ集中的に送り届けられる方法は増殖抑制やアポトーシスにおいて非常に重要と考えられている。

今回、信州大学と東芝は2020年5月29日、癌細胞に選択的に遺伝子を伝達する「がん指向性リポソーム」を開発したと発表した。

東芝が独自に設計した100nmサイズのナノカプセルに、信州大学が研究を進める癌抑制遺伝子を内包して、治療対象となるT細胞腫瘍に選択的に同遺伝子を導入することに成功している。マウスによる動物実験により効果を確認し、今後は、2023年ごろの治験開始に向けて開発を進めて行く方針とのことである。

現在、期待されている新たな癌治療法に遺伝子治療がある。治療遺伝子を癌細胞の中に運ぶことによって、癌細胞の増殖を抑制したり、癌細胞をアポトーシスさせたりすることができる。

癌遺伝子治療において大きな課題の1つが、治療対象の癌細胞に治療遺伝子を送り届ける運搬プロセスである。

一つは、ウイルスベクターを使用した運搬プロセスだが、ウイルスの制御や管理、運搬の品質を一定にすることが難しく、ウイルス自体の安全性についても課題がある。

今回開発したがん指向性リポソームは、複数種類の脂質の組み合わせにより作成した約100nmサイズのナノカプセルになっており、内部に治療遺伝子を内包することができる。

リポソームの脂質組成を制御することで、標的とする癌細胞だけに選択的に治療遺伝子を導入できる。

癌細胞へのリポソームの取り込み量は、正常細胞への取り込み量と比べて33倍で、内包する治療遺伝子の発現量も癌細胞では正常細胞と比べて425倍に達する。

今後、ナノ技術革新により癌治療の飛躍的向上が期待される。