体内のすべての臓器や組織は、臓器・組織ごとにそれぞれの根源となる細胞が分裂してつくられる。

この根源となる細胞である幹細胞は、分裂して自分と同じ細胞を作り出すことができ、またいろいろな細胞に分化できるという2つの重要な性質を持ち、この性質により傷ついた組織を修復したり、成長期に組織を大きくしたりできる。

癌幹細胞は、癌細胞のうち正常幹細胞と同じ性質をもった細胞である。

癌においても、幹細胞の性質をもったごく少数の癌幹細胞を起源として癌が発生するのではないかと考えられている。

癌治療は標準治療である手術による完全摘出が原則であるが、転移などに対しては化学療法・放射線治療などに加え最近は遺伝子治療や免疫治療も行われる。

それらの治療において、癌である腫瘍がほぼ消失する場合があるが、癌幹細胞を死滅させるのは非常に難しく、これを標的とした治療法が注目されている。

その研究ツールとして、各種癌幹細胞の培養細胞の利用が始まっている。

幹細胞は特徴的な細胞形態を呈するため、幹細胞性を簡単に評価する方法は今までなかったが、今回、癌幹細胞と非癌幹細胞を識別する人工知能(AI)技術が開発された。

これは、培養細胞または癌組織の位相差顕微鏡画像に写る癌幹細胞の細胞形態をAIが識別して、癌幹細胞を明示することができるもので、癌幹細胞の存在を指標にした医薬品評価や病理組織診断などへの応用が期待できる。

この研究成果は、オープンアクセス学術誌「Biomolecules」2020年6月19日に掲載された。

特別な標識をしていない癌幹細胞をAIが検出したことは、将来の医生物学的医療の新しい可能性を示唆し、各種癌幹細胞の細胞形態を学習したAIを細胞ごとに使用することで、培養時の幹細胞性評価や腫瘍組織内の癌幹細胞診断などの新しい測定技術に応用できる。

また、生命科学や医学分野の画像解析において、未同定の形態の解析にAIを使った本研究手法が応用されることが期待される。