膀胱癌は、全癌種の中でも最も再発しやすい癌のひとつであり、また、再発した場合、抗癌剤をはじめとした薬物治療は選択肢が限られている。

KDM6Aは、ヒストン修飾因子のひとつであり、ヒストンアセチル化酵素p300と複合体を形成して遺伝子の発現を制御する。

このKDM6Aは、すべての癌の中でも膀胱癌において突出して遺伝子変異の頻度が高く、膀胱癌の根幹をなす発症メカニズムに関わっていると考えられているが、その詳細は明らかではない。

今回、膀胱癌の発生母地である尿路上皮特異的に、KDM6A を欠失させたマウスを作製した。

また、ヒト膀胱癌においては、KDM6A 機能欠失は癌抑制遺伝子である p53 の変異と高頻度に合併するため、KDM6A 欠失マウスと p53 変異マウスとの掛け合わせを行ない、KDM6A 欠失・p53変異の 2 重マウスを作製した。

それにより、KDM6A 欠失マウスと p53 変異マウスには異常は認めなかったが、KDM6A 欠失・p53変異マウスの 2 重マウスの膀胱に、尿路上皮の異形成〜上皮内癌の発生を認めたことが報告された。

さらに、これらのマウスにタバコ由来の発がん物質である N-butyl-N-(4-hydroxybutyl) nitrosamine (BBN) を一定期間投与したところ、2 重マウスにのみ筋層にがん細胞が浸潤した進行癌を認めた。

これらのマウスにおける遺伝子発現変化の調査により、KDM6A が欠失した膀胱では炎症が惹起されており、また p53 の異常を有するマウスでは細胞の増殖が促進されており、これらの協調作用により膀胱癌が発症すること、さらに BBN は炎症をより悪化させることで、癌の早期進行に関与することが明らかになった。

また、p53 遺伝子が変異した膀胱癌細胞株を、KDM6A を人工的に欠失させた上でマウスに移植するとこの細胞は、KDM6A が正常である元の膀胱癌細胞と比較して、より大きな癌の塊を形成した。

この結果は、KDM6A の機能欠失が膀胱癌の進行にも関与していることを明確に示唆している。

KDM6A 変異を有する膀胱癌に対する新たな分子標的治療法として有用と考えられ、今後の臨床応用が期待される。

本研究成果は、米国癌学会(AACR) 発行Clinical Cancer Research オンライン版に掲載された。