動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などの血管疾患に対して、予防的投与として抗血小板薬のアスピリンが広く使用されている。

アスピリンには、その抗腫瘍効果も注目されており、癌予防・治療を目的としたドラッグ・リポジショニングの最有力候補として注目されている。

しかし、消化性潰瘍や出血傾向など、アスピリンによる副作用のため、アスピリンの抗腫瘍効果を事前に予測するバイオマーカーの探索や、アスピリンの抗腫瘍効果をより安全に、より効果的に高めるための併用治療薬の開発が行われている。

近年、がんゲノム解析の進歩により、アスピリンの抗腫瘍効果とがんゲノムとの関係が明らかとなってきており、大腸癌の 10~20%を占める PIK3CA遺伝子変異大腸癌において、アスピリンの効果が高いという臨床データが相次いで報告されているが、その詳細なメカニズムに関しては明らかではない。

一方、癌細胞においては、様々な代謝経路の異常が過剰な細胞増殖を促進させており、PIK3CA 遺伝子変異癌細胞においても、アミノ酸代謝のひとつである、グルタミン代謝が活性化することから、PIK3CA 遺伝子変異によるグルタミン代謝の増進が、アスピリンの感受性に影響を与えている可能性が考えられる。

今回、PIK3CA 遺伝子変異大腸癌を使用した培養癌細胞実験により、グルタミン枯渇下ではアスピリンの抗腫瘍効果が弱まり、さらにその原因として、アスピリンがグルタミン代謝を活性化させていることを、網羅的遺伝子発現解析 (RNA-seq) を用いて明らかにされた。

これにより、がんゲノム・グルタミン代謝を標的にすることで、アスピリンを用いたがんの精密医療(プレシジョン・メディシン)の確立が期待される。

本研究成果は科学雑誌『Cancers』に掲載された。