転移を伴う難治性癌や術後再発癌などに対しては、抗癌剤治療が行われることが多いが、薬剤への耐性出現により治療効果が消失し、予後不良の大きな要因となる。

一方,癌組織内の血管は,栄養・酸素を多く取り込むために、血管壁は正常血管壁よりも塑造で間隙は大きいのが特徴であり、また転移の経路にもなるために重要な役割を果たしている。

以前は、腫瘍内血管の内側を覆う腫瘍血管内皮細胞は遺伝的に安定で薬剤耐性を獲得しないと考えられていたが、腫瘍血管内皮細胞が様々な異常性をもつことを明らかになっている。

マウスの腫瘍モデルにおいて,腫瘍血管内皮細胞は抗癌剤パクリタキセルの排出ポンプ ABCB1 の発現レベルが高く,パクリタキセルに対して耐性があることわかり、さらに血管の ABCB1 阻害により同剤の治療効果が増強することが示唆されている。これにより、薬剤耐性のメカニズムとして、癌血管が薬剤耐性に関与することが明らかになったが、ヒトでは癌の薬剤耐性における血管の関与は未だ不明である。

今回、抗癌剤の一次治療が奏功せず,二次治療としてパクリタキセルが使用されるヒト尿路上皮癌を用いて,腫瘍血管内皮細胞における ABCB1 発現の有無と薬剤耐性への関与,さらに薬剤耐性克服にむけて血管の ABCB1 阻害の有用性を検討し、抗癌剤による腫瘍内の炎症性変化が血管に異常性を惹起し、薬剤耐性の原因となることが初めて明らかにされた。

今後、抗癌剤治療時のIL-8阻害や腫瘍血管内皮細胞のABCB1阻害は,耐性を克服する新たな治療戦略となることが期待される。

本研究成果は、 Cancer Research誌にオンライン掲載された。