抗がん剤をはじめとした薬剤を病変部に集中的に送達することができれば、より効果的な治療が可能となる。

その方法として、近年、抗癌剤をナノ粒⼦に封入して投与するドラッグデリバリーシステム(DDS)が脚光を浴びている。

しかし、DDS において、ナノ粒⼦が肝臓などに存在するマクロファージ(貪⾷細胞)による捕⾷されることにより送達率が低下する。

これを回避する性質(ステルス性)をナノ粒子に持たせることは、薬物送達効率を向上させる上で⾮常に重要である。

⼀⽅、高分子化合物であるポリエチレングリコール(PEG)で表⾯が覆われたナノ粒⼦は、⽣体中において、タンパク質の吸着が抑制されるため、マクロファージによる捕⾷や免疫応答反応などが回避できる。

しかし、最近、PEG で被覆したナノ粒⼦の表⾯にもタンパク質の吸着が起こるため、ステルス性の著しい低下やアナフィラキシーなどの過剰免疫応答などが惹起される問題が指摘されるようになった。

今回、ナノダイヤモンドや磁性酸化鉄ナノ粒⼦の表⾯を高分子化合物ポリグリセロール(PG)で被覆したナノ粒子とPEG で被覆したナノ粒⼦について、タンパク質の表⾯吸着とマクロファージによる捕⾷における⽐較検討が報告された。

その結果、PEG で被覆されたナノ粒⼦に比べ、PG で被覆されたナノ粒⼦では、タンパク質の表⾯吸着とマクロファージによる捕⾷は共にほとんど確認されなかった。

これにより、PG で被覆されたナノ粒⼦では、ステルス性の向上により癌組織への薬物送達効率、そして癌治療効果のUPが期待される。

本研究成果は、国際学術誌「ACS Nano」のオンライン版に掲載された。