生物の基本設計図は、ゲノムと呼ばれる生殖細胞染色体のDNAの全遺伝情報に描かれている。

細胞は、エピゲノムと呼ばれるゲノムの飾り情報で性質が決まり、ゲノム配列の中で不必要な部分には不活性マークを飾り付け、閉じ込めて利用できないようにしている。

癌はゲノム配列の変異とエピゲノムの異常の蓄積により発生する。

細胞の過増殖を抑制する遺伝子は正常細胞の維持に必須であるが、ゲノム配列の変異で機能を喪失したり、DNAメチル化など不活性マークを誤修飾されることで発現消失し癌化に寄与する。

EBウイルス感染によって発症するEBウイルス胃癌は胃癌の 8-10%を占める悪性腫瘍であるが、ウイルス感染から発癌に至るまでのメカニズムは明らかでない。

今回、EBウイルス胃癌においては特徴的なゲノム領域で、強力な不活性マークの一部が消失する現象の網羅的比較解析についての報告がなされた。

まず、様々な胃癌細胞と正常胃細胞を比較解析した結果、EBウイルス胃癌でもほぼ同じゲノム領域にEBウイルスが接近していることがわかった。

その領域の多くは、胃細胞中で本来は閉じているはずの不活性領域であり、EBウイルスDNAの接近により、本来あるはずの不活性マークが消失し活性化していた。

また、実験的に胃培養細胞に EBウイルスを感染させると、上記と合致する領域に EBウイルスが接近し、異常活性化する様子が再現された。

さらに、ウイルスが接近した領域のエンハンサーも異常活性化し、周辺の増殖関連遺伝子の発現量が上昇し、細胞を異常増殖させることが明らかになった。

これらのことから、 EBウイルスの胃細胞への感染は、常にほぼ同じ不活性領域を消失させ、正常のエンハンサーを異常活性化させ発癌させるということが示唆される。

この研究成果は、胃癌をはじめとするウイルスが関与する多くの悪性腫瘍についての原因の解明や治療法確立につながることが期待される。

科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」にてオンライン公開された。