難治性癌治療に対する免疫チェックポイント阻害剤が脚光を浴びている。

PD-1は活性化した免疫T細胞の表面に発現する受容体であり、そのリガンドとしてPD-L1とPD-L2が同定されており、それらの分子の発現の上昇が免疫活性を抑制している。

そのため、PD-L1とPD-L2は過剰な免疫反応や炎症応答におけるチェックポイント分子であり、癌細胞においてはPD-L1が恒常的に発現しているため、T細胞の増殖や機能が過剰に抑制されている。

その結果、免疫システムは癌細胞を排除できず、PD-1やPD-L1、PD-L2をターゲットとした抗癌剤の開発が進んでいる。

PD-L1はリンパ球系の細胞だけでなく、他の様々な細胞でも発現する一方で、PD-L2は樹状細胞やマクロファージなどの一部の血球系に特異的に発現するが、その発現制御機構は明らかではなかった。

今回、東京理科大学基礎工学部生物工学科の研究グループにより、樹状細胞やマクロファージの発生と遺伝子発現制御に重要な役割を有する転写因子PU.1に着目し、PD-L2をコードするPdcd1lg2遺伝子の発現制御機構について調査されたことが報告された。

転写因子であるPU.1は単体としても機能するが、結合パートナーである転写因子IRF4あるいはIRF8とヘテロダイマーを形成し、直接遺伝子のプロモーターに結合することにより、遺伝子発現を制御していることも明らかになっている。

骨髄由来樹状細胞(BMDC)において、PU.1、IRF4およびIRF8がPdcd1lg2遺伝子の発現制御に関与しているかについて調べた結果、siRNAを用いてPU.1、IRF4およびIRF8の遺伝子発現を抑制すると、IRF4やPU.1のノックダウンではPD-L2の発現量は抑制されたが、IRF8においては発現抑制は確認できなかった。

逆に、IRF4を過剰に発現させると、PD-L2の発現量は通常よりも増加した。

これらの実験結果から、PU.1とIRF4はPD-L2の発現制御に関わっていることが明らかになった。

IRF4とPU.1のヘテロダイマーは、EICE配列と呼ばれる特定のDNA配列パターンに結合して遺伝子発現を開始させることがわかっており、Pdcd1lg2遺伝子のDNA配列を確認すると、プロモーターやイントロン部位に複数のEICE配列が存在することが確認できた。

そこで、ChIPアッセイと定量的PCRを組み合わせて、IRF4とPU.1がそれらの領域に結合するか検証した。その結果、樹状細胞の染色体上では、Pdcd1lg2遺伝子の特定の領域CNS3にPU.1とIRF4が有意に結合していることが確認され、また、DNAとタンパク質の相互作用を直接的に検証するため、ゲルシフトアッセイ(EMSA:)を行った結果、IRF4とPU.1の複合体はCNS3中のEICE配列に強く結合した。

次に、このPdcd1lg2遺伝子CNS3のEICE配列がIRF4とPU.1によって転写活性化されるかレポーターアッセイ法で検証するために、CNS3のEICE配列下流に発光タンパク質であるルシフェラーゼの遺伝子を連結して培養細胞に導入し、IRF4とPU.1を共発現させると、発光タンパク質の強い発現が確認できた。

しかし、CNS3領域のEICE配列に変異を入れて配列を変えた場合においては、その発現は確認できなかった。

このことから、IRF4とPU.1はCNS3領域のEICE配列依存的に遺伝子を転写活性化できることが明らかになった。

また、CNS領域におけるヒストンのアセチル化におけるPU.1とp300の関与について調査した。

ChIPアッセイとsiRNAを組み合わせた実験では、PU.1やp300をノックダウンした場合、ほとんどのCNS領域においてH3ヒストンのアセチル化量が減少したため、CNSでのアセチル化にPU.1とp300が関わっていることが示唆された。

顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)は、樹状細胞の分化を促進したり、活性化を引き起こしたりする作用をもつ細胞外因子である。

GM-CSF刺激が樹状細胞のPdcd1lg2遺伝子発現を上昇させ、そこにPU.1の動態変化が関わる可能性について検証した。

定量的PCRによるmRNA測定やフローサイトメトリー、ChIPアッセイを用いて解析した結果、ある種の樹状細胞ではGM-CSFによってPdcd1lg2遺伝子発現が著しく上昇し、PD-L2遺伝子のCNS領域へ結合するPU.1量が増加すると共にCNS領域でのヒストンアセチル化が亢進することが判明した。

以上の結果から、PU.1は、IRF4とヘテロダイマーを形成し、Pdcd1lg2遺伝子のEICE配列に直接結合して転写活性化する機能と、p300の染色体へのリクルートを促進してヒストンH3のアセチル化に寄与する機能との、2通りの役割によってPD-L2発現を誘導することが解明された。

今後、より詳細にPD-L2遺伝子発現制御機構が解明され、それら転写因子を制御により免疫の抑制機能を効率よく調節する新たな癌治療の開発が期待される。