近年、化学療法にはめざましい進歩があり、癌細胞や正常細胞に存在する特定のタンパク質に作用する分子標的薬を用いた癌治療が行われているが、薬剤の製造コストや副作用の面などから、低分子薬と抗体医薬の特性を併せ持つ中分子サイズの薬剤として環状ペプチドが注目されている。

今回、RaPIDシステムを利用し、SIRPαに結合する中分子サイズの環状ペプチドの探索を行い、15個のアミノ酸からなるSIRPα結合環状ペプチドを発見し、さらに、SIRPα結合環状ペプチドがSIRPαとCD47の結合を阻害する作用を持つことを明らかにした。

これにより、ヒトBリンパ腫由来がん細胞を標的とする抗体医薬であるリツキシマブやマウス由来のメラノーマ細胞を標的とするTA-99抗体により誘導される癌細胞に対するマクロファージの貪食作用をSIRPα結合環状ペプチドが高めることが確認できた。

さらに、メラノーマ細胞を移植した腫瘍モデルマウスにTA-99抗体とSIRPα結合環状ペプチドを同時に投与した場合には、それぞれの単独投与に比べ、マウスの肺に形成されたメラノーマ細胞の腫瘍結節の数が著明に減少することが分かった。

これらのことから、少なくともマウスの生体内では、SIRPα結合環状ペプチドが癌細胞を標的とする抗体医薬の抗癌作用を増強することが示唆された。

本研究により、SIRPα結合環状ペプチドが癌細胞を標的とする抗体医薬の抗癌作用を増強する薬剤として利用できる可能性を示し、今後、癌治療薬として最適化されたSIRPα結合環状ペプチドの開発が期待される。

この研究成果は、米国科学誌「Cell Chemical Biology」にオンライン掲載された。