免疫チェックポイント阻害薬は、癌に対する免疫反応を高めることで抗癌作用を示す癌免疫治療薬です。

日本では悪性黒色腫、肺癌、腎癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、胃癌、尿路上皮癌、乳癌等で近年保険が適用され、使用が拡大している。

一方で、薬剤による免疫反応の活性化が自己の臓器で発生することで生じる副作用irAEsが問題となっている。

irAEs は肺、消化管、皮膚、神経・筋、内分泌器官など全身の様々な部位で認められ、内分泌障害の頻度は高いと考えられていたが、下垂体での発生が明らかになり、また、免疫チェックポイント阻害薬による下垂体副作用が発症した場合、ACTH 分泌低下症に対して生理量のステロイド投与が推奨されているが、生命予後については明らかではなかった。

今回、免疫チェックポイント阻害薬による下垂体副作用の特徴及び生命予後を明らかにするため、免疫チェックポイント阻害薬を使用した悪性黒色腫及び非小細胞肺癌患者を対象に、副作用及び全生存率が解析された。

対象は免疫チェックポイント阻害薬により治療を受けた悪性黒色腫、非小細胞肺癌であり、内分泌障害の評価のため 6 週毎に下垂体、甲状腺および副腎関連検査と血糖値を 24 週間測定し、実臨床データを解析した結果、悪性黒色腫では18.2%、非小細胞肺癌では3.7%に下垂体機能低下症が発生した。

また、薬剤別では、抗 CTLA-4 抗体療法で 24.0%、抗 PD-1 抗体療法で 6.0%の頻度で下垂体副作用が認められ、以前の報告より高頻度であることが明らかになった。

特に、抗 CTLA-4 抗体であるイピリムマブ投与中の症例では、下垂体腫大と複数の下垂体ホルモン分泌低下を伴う下垂体炎と、下垂体腫大は認められず ACTH の分泌のみ低下する ACTH 単独欠損症の二つの異なる病態を呈することが明らかとなった。

一方、抗 PD-1 抗体であるニボルマブやペムブロリズマブ投与中の症例では ACTH単独欠損症の病態のみが認められたことから、下垂体副作用には発症メカニズムの異なる 2 種類の病態が存在することが示唆された。

そして、下垂体副作用を発症した全ての症例は、ACTH 分泌低下症に対して生理量のステロイドホルモンで治療された。

また、下垂体副作用を発症した患者は発症しなかった患者に比べ、全生存率の有意な延長が認められた。

この結果から、下垂体副作用は適切に治療した場合、治療効果の予測因子となる可能性が示唆され、現在急速に拡大している癌免疫治療の副作用マネジメントにおいて極めて重要と考えられる。

本研究成果は、英国 BMJ より発行されている科学誌『Journal for ImmunoTherapy of Cancer』に掲載された。