DNA 結合タンパク質は、細胞内にある DNA の中から標的部位に結合し、機能を発揮する。

この標的部位への結合には、DNA に沿ったスライディング、DNA 上でのジャンプ、そして2 本の DNA 間の移動などの探索運動が考えられる。

これらの探索運動を調べるために、単分子蛍光顕微鏡を用いて、蛍光色素を修飾したタンパク質の DNA 上での動きを追跡する方法を用いた。

今回、DNA 上のスライディング運動や DNA 間移動の時間を計測する方法が報告された。

まず、DNA・蛋白質の複合系に特化した単分子蛍光顕微鏡の時間分解能の向上のため、DNA をガラス基板にその末端を介して固定し、その DNA に結合するタンパク質を入射レーザー光で照明し、タンパク質から出る蛍光をカメラで検出した。

実際には、2 次元画像の中に、複数のDNAに結合したタンパク質が蛍光スポットとして検出される。

そこで、短い時間でも十分な蛍光のフォトン数を得られるように入射光強度を高くし、検出光路にスリットを導入し、検出される DNA を 1 本に絞り、カメラによる検出を 2 次元から 1 次元に減らすことで、時間分解能の向上を行った。

続いて、ガラス基盤から少し離れた位置にある DNA を適切に照明する方法を検討し、対物レンズに入射光を全反射照明が起こる角度(臨界角)で導入することが最適であることを明らかにした。

これにより、改良した蛍光顕微鏡と臨界角全反射照明を用いて、500 マイクロ秒の時間分解能での計測が可能となった。

従来は、DNA 結合タンパク質の計測の時間分解能の大幅な更新に成功した。次に、開発した方法を用いて、がん抑制タンパク質 p53 の素早い運動の計測を行った。

まず、DNA への p53 の結合時間は数ミリ秒の短い間に結合することが明らかとなり、これは、p53 が DNA への結合時に過渡的に形成する中間体であると考えらる。次に、DNA 上での p53 の動きを追跡調査では、DNA 上で p53 がジャンプ運動することが明らかになった。

このジャンプ運動は、細胞内で DNA 上に結合している多くの障害物タンパク質を避けて、p53 が効率的に標的を探索できるようにしていると考えられる。

また、p53 の DNA 上の動きを詳細に解析すると、p53 が、DNA 結合ドメインをホップさせながら、DNA のリン酸骨格に沿わずに移動する可能性が明らかになった。

今後、サブミリ秒分解単分子計測法により、p53 だけでなく、様々な DNA 結合タンパク質の機能解析に役立つと期待される。

本研究成果は、英国科学誌 Scientific Reports(オンライン版)に掲載された。