癌の悪性化は、癌微小環境における細胞から分泌されるトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)は、上皮がん細胞の上皮間葉移行(EMT)、腫瘍血管新生、CAFの形成、制御性T細胞の分化誘導などを介して腫瘍環境をがんの悪性化へ誘導することが明らかになっている。

TGF-βファミリーの中で、TGF-β2の発現は神経膠芽腫(グリオーマ)などの難治癌において高値であることが分かっている。

また、最近、腫瘍血管内皮細胞由来のCAFがTGF-β2を分泌することにより、癌細胞のEMTを誘導し、癌微小環境の構成因子は、ネットワークを形成し、そのネットワークを制御するTGF-β2の治療標的としての重要性が高いことが明らかになりつつある。

今回、TβRIとTβRIIの両方を含むFc融合タンパク質(TβRI-TβRII-Fc)が開発され、TβRIIのみを含むTβRII-FcはTGF-β1とTGF-β3によるシグナルを抑制するがTGF-β2の作用を阻害できないことが確認された。

しかし、新規Fc融合タンパク質TβRI-TβRII-FcはTGF-βの全てのアイソフォームに結合し、TGF-β2を含む全てのアイソフォームによるシグナル伝達を阻害することが示唆され、さらに頭頸部癌患者においてはTGF-β2が予後不良因子であることが明らかになった。

頭頸部癌の中で口腔扁平上皮癌細胞の悪性化の指標となる上皮間葉移行(EMT)はTGF-βにより誘導されるが、TβRII-FcはTGF-β1とTGF-β3によるEMT誘導を抑制するが、TGF-β2によるEMT誘導を抑制できないことが示唆された。

また、TβRI-TβRII-FcはTGF-βの全てのアイソフォームによるEMT誘導を抑制できることもが明らかになった。

さらに、TGF-β2の発現が高い口腔癌細胞の皮下移植モデル実験では、TβRI-TβRII-FcがTβRII-Fcよりも効率良く腫瘍形成を抑制することが見出され、この作用が腫瘍血管新生の抑制を介することも明らかになった。

これらより、TβRI-TβRII-Fcが、癌微小環境に存在するTGF-βの全てのアイソフォームを標的とした有望な分子標的治療薬となることが示唆され、今後、口腔癌や神経膠芽腫における癌微小環境ネットワークシグナルを標的とした新たな癌治療法の開発が期待される。

この研究成果は、国際科学誌Journal of Biological Chemistryにオンライン版で発表された。