生体内正常細胞の周囲組織はpHは7.4 前後の中性環境下に制御されており、わずかな変動により重大な悪影響を及ぼされる。

しかし、癌組織ではワールブルグ効果などにより癌細胞周囲組織のpH がは6.5 前後と正常組織と比べて大きく酸性化している。

しかし、正常細胞にとって有害である酸性環境下において癌細胞は増殖し続け、癌組織が拡大してゆく適応のメカニズムについては明らかでない。

今回、転移性大腸癌などのさまざまな癌組織で高発現する PRL により細胞の増殖しやすい環境 pH が通常の 7.4 前後から癌組織でみられる 6.5 前後にシフトし、癌組織内の酸性環境において増殖できる一方、正常細胞にとって最適であるpH 7.4 前後では増殖不可能になる現象の発見について報告された。

さらに、CRISPR/Cas9 法を用いた関連遺伝子の網羅的なスクリーニングを通じて、リソソームが細胞辺縁部に移動し、細胞膜と融合することで高濃度のプロトンなど、その内容物を細胞外へと放出する現象であるlysosomal exocytosisが acid addiction の分子メカニズムも明らかにされた。

本研究成果により、癌微小環境の顕著な特徴である酸性化状態への応答機構のacid addiction を標的とした新たな癌治療法開発への展開が今後期待される。