女性で最も罹患率の高い癌である乳癌の中で、生殖細胞変異が原因となって発症する遺伝性乳癌は、欧米では全乳癌の約 10%であり、本邦では 5.7%との報告がある。今回、遺伝性乳癌における遺伝学的および臨床的特徴についての報告があった。

適格基準を満たした 1,995 症例の血液細胞から採取した DNA を用いて、遺伝性乳癌の原因となり得る 11 遺伝子についてのゲノム解析を行い、さらに、生殖細胞系列に遺伝子異常を認めた症例については腫瘍組織についてもゲノム解析を行い、腫瘍細胞にみられる遺伝子変異 体細胞変異、染色体コピー数異常について解析を行った。

1,995 症例のうち 5.1% の症例で生殖細胞系列に病的遺伝子変異が検出され、変異が同定された遺伝子としては BRCA1/2 が BRCA2 に病的遺伝子変異が認められた。病的遺伝子変異のある症例では有意に発症年齢が若く 乳癌発症年齢中央値は 53 歳、またBRCA1 に遺伝子異常がある症例で有意にトリプルネガティブ乳癌が多い結果であった。

次に、BRCA1/2 変異を持った症例 30 例から発症した乳癌についてゲノム解析においては、大多数の症例では染色体コピー数異常により 2 つの BRCA1/2 遺伝子の両アレルの不活化が認められたが、残りの数10%の症例では正常の BRCA1/2 遺伝子の片アレルのみの不活化が発生していた。

両アレルの不活化がみられる症例では、ヘテロ接合性消失( LOH)というタイプのコピー数異常がより広範囲に認められ、また高頻度に TP53 変異( BRCA1 変異例)、RB1 遺伝子( BRCA2 変異例)の変異が認められた。

TP53 遺伝子、RB1 遺伝子はそれぞれ BRCA1、BRCA2 と同じ 17 番、13 番染色体上に位置しているため、染色体異常によりこれらの遺伝子が同時に欠失することで腫瘍化に関与していることが示唆された。

また、臨床的特徴を比較すると、両アレルが不活化されている症例では有意に発症年齢が若年であり、進行癌やトリプルネガティブ乳癌が多い傾向が認められた。

今後さらなる解析により両アレルあるいは片アレルの不活化とこれらの薬剤による治療効果との関連などの解明が必要であると考えられる。

本研究は、英国科学誌 「Communications(Biology)にオンライン掲載された。