肺癌は本邦において死亡原因の一位の癌腫であり、特に肺腺癌の一種である浸潤性粘液性肺腺癌は、未だ効果的な治療法がない。

遺伝子異常が少ないため、分子標的治療の対象とならず、化学療法などの選択により患者の予後に個人差がでる。

浸潤性粘液性肺腺癌には限局性病変を形成する予後のよい群と、両側の肺に進展する予後の悪い群があるため、診断の細分化と患者の予後を予測することを目的に浸潤性粘液性肺腺癌の粘液に着目した網羅的遺伝子解析と粘液発現パターンの解析報告がなされた。

切除浸潤性粘液性肺腺癌の組織に対し次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子解析と免疫組織化学によるタンパク発現の統合的解析を行い、腫瘍の分子病理学的特徴や粘液発現パターンを詳細に調べた。

その結果、浸潤性粘液性肺腺癌のすべての再発は肺内に限局し、肺外転移もみられず、遺伝子解析の結果から癌の発生・進展に直接的に重要な役割を果たすドライバー遺伝子の変異として約3分の2にKRAS変異が存在し、一般的な肺腺癌でみられるEGFR変異, ALK, ROS1, RET融合遺伝子は認めまなかった。

また、KRAS変異型の方がKRAS野生型に比べ予後不良であることが明らかになった。一方、粘液発現パターン解析の結果では、粘膜の粘性物質ムチンMUC1およびMUC4陽性例は陰性例に比べ予後不良であり、ヒトでは通常発現の無いMUC6が高発現する症例群は、MUC6陰性・低発現の症例群に比べ予後良好であり、MUC6高発現群においては1例も再発、死亡を認めないことがわかった。

また、MUC6高発現症例は、より小さな腫瘍径、女性、KRAS野生型と有意に関連していることが明らかとなった。

これらより、浸潤性粘液性肺腺癌における腫瘍の粘液発現パターンを調べることのより、肺腺癌の診断の細分化と有効な治療法選択が期待できる。

本研究は米国・カナダ病理学会誌「Modern pathology」オンライン版で発表された。