ロカグラミドAは、アグライア(Aglaia odorata)という植物が産生する二次代謝産物であり、標的タンパク質である翻訳開始因子「eIF4A」に結合することで翻訳を阻害し、がん細胞の増殖を抑制する。

また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2に対する抗ウイルス作用も持つことが明らかになっている。

ロカグラミドAは、eIF4A以外のタンパク質も標的とすることが示唆されており、特定のがん細胞に対してより効果的に作用することが知られている。

今回、抗がん作用を持つ植物由来の翻訳阻害剤「ロカグラミドA」の標的タンパク質として、翻訳開始因子「DDX3」が新たに同定されたことが報告された。

まず、ロカグラミドA(RocA)にO-NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール)と呼ばれる特殊な反応基を結合させた化合物(RocA-O-NBD)を有機合成した。

O-NBD基は、近くのタンパク質のリジン残基と反応し、蛍光性のN-NBD基へと変化するため、RocA-O-NBDはその分子の近くに存在するロカグラミドAの標的タンパク質に蛍光標識を導入することが可能であり、また、蛍光標識された標的タンパク質は質量分析法により同定できる。

実際に、RocA-O-NBDをウサギ網状赤血球抽出液中で反応させると、翻訳開始因子としてeIF4Aに加えて「DDX3」が新たに同定された。

また、培養細胞でDDX3をノックダウンすると、ロカグラミドAによる細胞増殖抑制の効率が減少することが明らかになった。

eIF4AやDDX3はRNA結合タンパク質であるが、RNA配列特異性を有さず、ロカグラミドAと結合したeIF4Aには、アデニン(A)やグアニン(G)塩基が連続した配列(ポリプリン配列)に対する新しいRNA配列特異性が生じるため、ポリプリン配列を持つRNAからの翻訳が阻害され、同様のことがDDX3にも生じていることが明らかになった。

また、アグライアからRNAを単離し、次世代シーケンサーを用いた解析によりトランスクリプトームを再構築することで、アグライアのDDX3遺伝子の塩基配列も明らかになり、アグライアDDX3には特異的な点突然変異が生じていることが分かった。この点突然変異をヒトDDX3に付与するとロカグラミドAが作用できなくなるため、アグライアは進化上、ロカグラミドAの標的タンパク質の遺伝子に変異を獲得することにより、ロカグラミドAが自分自身を攻撃しないように翻訳開始因子を変化させ、ロカグラミドAは標的タンパク質の量が多いほどRNAに結合するeIF4AおよびDDX3が多くなり、結果的に翻訳阻害効果が高まることが明らかになった。

また、数種のがん細胞において、ロカグラミドAの作用効果はeIF4AおよびDDX3の発現量と相関することも明らかになった。

今後、ロカグラミドAの作用効果のより高いがん細胞を予測することが可能となると期待できる。

本研究成果は、科学雑誌『Cell Chemical Biology』オンライン版に掲載された。