C型肝炎、B型肝炎、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などの慢性肝疾患では、病気の進行に伴い繊維化が起こり、やがて肝細胞がんを併発する。

肝臓に存在する肝星細胞は、肝臓に慢性的な炎症が起きた場合に活性化され、肝臓の線維化を進行させ、肝星細胞とがん細胞が相互作用することにより癌が増殖・進展している可能性が考えられていたが、今回、肝がん細胞が肝星細胞のオートファジーを亢進することによりGDF15(growth differentiation factor 15)を分泌させ、肝がん細胞の増殖を促進していることが明らかにされた。

肝星細胞と肝がん細胞を一緒に培養すると、肝星細胞のオートファジーが亢進し、また、肝がん細胞の増殖が促進することを見出した。

さらに、オートファジーを停止させた肝星細胞を肝がん細胞とともに免疫不全マウスに移植すると、正常な肝星細胞を移植した場合と比較して、腫瘍増殖が抑制された。

また、肝がんモデルマウスを用いた実験では、肝星細胞のオートファジーを抑制すると、肝がん細胞増殖・肝がん進展が抑制されることも明らかになった。

次に、肝がん細胞と一緒に培養することで発現が増加し、肝星細胞のオートファジーを抑制することで減少するような肝星細胞分泌タンパクを網羅的に検索することにより、GDF15が同定された。

培養細胞を用いた実験では、肝星細胞のGDF15を抑制すると肝がん細胞の増殖は抑制され、また、肝がんモデルマウスを用いた実験では、肝星細胞のGDF15を欠損させると肝がんの進展が抑制された。

さらに、肝がん切除検体を用いたシングルセルシークエンス・免疫染色の結果、ヒト肝細胞癌の腫瘍組織内にもGDF15を発現した肝星細胞が存在することが明らかにされた。

また、肝細胞がん症例の血清GDF15の濃度は高く、血清GDF15濃度が高い肝細胞がん症例では予後が不良であった。

これらより、肝がん微小環境における肝星細胞は、オートファジーの亢進を介してGDF15を分泌し、肝がんを増大させ、肝がん細胞と肝星細胞の相互作用機序が明らかにされ、今後GDF15に対する抗体治療が、肝がん患者さんに対する新たな治療選択肢の1つとして臨床開発されることが期待される。

本研究成果は、米国科学誌「Gastroenterology」に公開された。