がん組織周囲の血管は栄養分を多く取り込むために100ナノレベルの間隙を有する。

そのため、EPR効果によって、100ナノ以下の高分子化合物は間隙から組織周囲に浸透・蓄積する。

近年、このようなDDS(Drug delivery system)を用いたがん治療のためさまざまなナノ化合物が開発されており、今回、ユニットポリイオンコンプレックス (uPIC) と呼ばれる超微小ナノ医薬品についての報告がなされた。

このナノ粒子は、直径が18 nm程度で、生体組織の透過性に優れており、毛細血管の間隙が非常に狭い脳腫瘍や線維性の間質と呼ばれる組織で覆われた膵臓癌のような難治性の癌に対して、これらのナノ粒子内に薬剤を封入したがん治療法が研究されている。

mRNAやsmall interfering RNA(siRNA)といった核酸医薬は、アンチセンス核酸(ASO)などの抗体医薬であるバイオ医薬品に比べ製造が容易で安価であるものの、生体内ではヌクレアーゼなどの働きにより速やかに分解されてしまうため、この欠点を克服するためにuPIC内に薬剤を内包させて投与する。

uPICは、「ポリエチレングリコールとポリリシンがY字型に連結されたブロックコポリマー」と「1分子の核酸医薬」との間で静電相互作用を介して形成される。

uPICは1分子の核酸医薬のみ搭載しているため、既存の脂質分子を用いたナノ医薬品(約100 nm)と比べて、サイズを劇的に小さく調整することができる。

また、uPICは遊離のY字型ブロックコポリマーとの間で動的平衡状態を保っていることが挙げられる。

uPICは血流中で優れた滞留性を示し、血液-脳腫瘍関門(BBB)で遮られた脳腫瘍にも核酸医薬を到達させることが可能となる。

今後、さまざまな癌腫に対しての優れた薬効がナノ医薬品が期待される。

本研究成果は、J. Controlled Release にオンライン掲載された。