正常細胞において、mRNAは、DNAから転写後スプラインシング機構によって成熟型へと加工される。

がん細胞では、スプライシング機構や、不要なRNAを分解する品質管理機構であるNMDが破壊されることにより、異常なmRNAが蓄積する。

しかし、従来のシークエンサーは、RNAを分離後100塩基程度の短い長さの配列を読影するため、mRNAの全長構造を読影できず、どのような全長構造を持ったmRNAが存在しているのかは明らかにできなかった。

がん細胞は突然変異を起こし、正常細胞には認めない異常なタンパク質を発現するようになる。

タンパク質は切断されることで、ペプチドと呼ばれるタンパク質の断片ができ、免疫細胞は、がん細胞にしかないペプチドであるネオアンチゲンを認識することにより、正常細胞とがん細胞を区別して攻撃する。

今までは、1塩基の突然変異の量である腫瘍遺伝子変異量(TMB)が、ネオアンチゲンの量に比例するため、効果予測のための指標として使用されていたが、TMBだけでは予測がつかない症例もあることから、それ以外にも新しい指標が必要とされおり、今回、22種類の肺がんの培養細胞株と7症例の肺がん検体について、ナノポアシークエンサーでDNAに変換したmRNAの全長を読影する全長cDNAシークエンスにより、がんに存在する異常mRNAの全長構造のカタログ化についての報告がなされた。

また、最も異常mRNAの多かった細胞株で突然変異が見られたUPF1遺伝子とがんで高い頻度に突然変異が見られる遺伝子であるSF3B1遺伝子の発現量を低下させて、異常mRNAの蓄積への影響を調査すると、mRNAの品質管理機構の一つのNMDに関わる遺伝子であるUPF1とmRNAのスプライシングに関わる遺伝子であるSF3B1は、全長cDNAシークエンスを行った結果、いずれの遺伝子の発現の低下によっても異常mRNAが蓄積することが示唆された。

また、プロテオーム解析を行った結果、いくつかのペプチドについてその存在が確認でき、さらに、異常なmRNA由来のペプチド配列は、1塩基の突然変異由来のものよりも予測されたスコアが高いものが多いことが示唆された。

ELISpotアッセイを使用して、ペプチドを免疫細胞に提示する役割を持つHLA遺伝子をヒト型にしたマウスに、17種類のペプチドを注射して、ペプチドに反応する免疫細胞ができたのかを調査した結果、半数程度のペプチドについて、反応する免疫細胞ができたことが確認できた。

さらに、米国のがんゲノムプロジェクトTCGAのデータを調べたところ、NMDの遺伝子に突然変異を持つ肺腺がんの検体で異常mRNAの多い傾向が見られた。

これにより、今回、がんの異常mRNAの検出のために、全長cDNAシークエンスが有効であること、そして、異常mRNAから多数のネオアンチゲンが生じている可能性が示された。

本研究成果は、英国科学雑誌「Genome Biology」のオンライン版で掲載された。