骨髄中に存在する造血幹細胞はすべての血液細胞のもとになる細胞で、細胞分裂により毎日数千億個の白血球・赤血球・血小板を作り続けており、抗がん剤治療や骨髄移植後などの血液細胞減少状態では、さらに多くの血液細胞を産生するように働く。

造血幹細胞は、血液状態を一定に保つのに極めて重要な役割を担っているが、体内にある造血幹細胞の数には限りがあり、分裂によってすべての造血幹細胞が成熟した血液細胞に変化してしまうと、造血幹細胞は消失し、血液細胞を作ることができなくなる。

このため造血幹細胞は、自らと全く同じ細胞を複製する自己複製の静止状態に停止することにより、自らの数を維持する。

造血幹細胞の維持には、ブドウ糖をもとにした代謝システムが重要な役割を果たす。ブドウ糖の代謝経路としては、解糖系からクエン酸回路につながる経路以外に解糖系から分岐するヘキソサミン生合成経路(HBP)と呼ばれる経路が存在する。

この解糖系は糖鎖であるN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の元になるUDP-GlcNAcを生成する経路で、O結合型β-N-アセチルグルコサミン転移酵素(OGT)が、様々なたんぱく質にGlcNAc基を付加するGlcNAc修飾が行われる。細胞に取り込まれたブドウ糖の2~3%がHBPで代謝されGlcNAc修飾に利用されるが、今回、GlcNAc修飾の造血幹細胞における役割について明らかにされた。

まず造血系におけるOGTの発現量とGlcNAc修飾を受けているたんぱくの量を調査すると、成熟した細胞に比べて造血幹細胞を含む未熟な造血細胞ではOGTの発現が高く、GlcNAc修飾を受けているたんぱく質の量も多いことが明らかになり、OGTによるGlcNAc修飾は造血幹細胞で重要な役割を担っている可能性が示唆された。

次に、OGTをマウスの血液細胞全体で欠失させると、白血球・赤血球・血小板が急激に減少し、さらに骨髄では造血幹細胞や未熟な前駆細胞が消失し、OGTが造血幹細胞を維持するのに必須であることが示唆された。

さらに、OGTを欠失した造血幹細胞では細胞を障害する活性酸素種が増加し、静止状態が失われ、アポトーシスによる細胞死が亢進しており、さらに細胞のエネルギー産生に重要なミトコンドリアが異常な形態を示しており、機能的に不良なミトコンドリアが蓄積していることも明らかとなった。

造血幹細胞では、ミトコンドリアの質や量を適切に調節することが恒常性の維持に重要であるため、ミトコンドリアの質を保つのに重要なメカニズムとして、不良なミトコンドリアを除去するマイトファジーという仕組みが知られています。

OGT欠損による不良ミトコンドリア中にはマイトファジーの鍵となるPink1という遺伝子の発現が著しく減少しておりは、マイトファジーの機能低下によることが示唆された。

今後は、OGTやGlcNAc修飾を標的にすることで、新たな造血幹細胞移植法の開発や白血病などの新規治療法開発につながることが期待される。

本研究成果は、『Cell Reports』に掲載された。