タンパクをコードしないncRNA(non-coding RNA)の一つであるmiRNA(microRNA)は、細胞の増殖やアポトーシスなどと密接に関係し、特に癌の発生や増殖に重要な働きをする。

siRNAは特定の遺伝子のmRNAに結合してmRNAを分解するのに対し、miRNAは標的となる遺伝子が1種類のmiRNAにつき100~200種類あると考えられている。

miRNA は、RISC(RNA induced silencing complex)と呼ばれ、タンパク・核酸の複合体とともにmRNAに結合し、mRNAからタンパクへの翻訳を抑制する。

ヒトmiRNAは現在2500種以上が同定され、今回、大腸癌に関して、培養細胞の増殖を抑制し、大腸癌患者の組織内で発現低下しているmiRNAが同定された。

まず、大腸癌の培養細胞HCT116に対し、アポトーシスを惹起しない量のアドリアマイシン100ng/mlで処理して細胞増殖を抑制し、miRNAの同定を行った。

解析したmiRNA157種類のうち、発現が2倍以上に上昇したものは7種類で、反復実験により、再現性をもって発現誘導されるものとしてmiR-34a、miR-34b、miR-34cのmiR-34ファミリーを同定でき、最も安定的に発現していたmiR-34aは、48時間で約10倍にも増加することがわかった。

この実験に使使用した大腸癌培養細胞HCT116では、癌抑制遺伝子p53が正常に働くことが確認されており、miR-34aの発現量の増加に先行して、p53が蓄積してくることもわかった。

p53が変異している大腸癌培養細胞では、miR-34aが誘導されないことから、大腸癌では細胞増殖の停止の際に、miR-34aがp53の蓄積に連動して働くことが示唆された。

続いて、miR-34aが細胞増殖を止める可能性を検証するために、HCT116と別の大腸癌培養細胞RKO(p53は野生型)にそれぞれmiR-34aを導入することにより、細胞増殖が抑制され、遺伝子発現変化をマイクロアレイで網羅的に調べると、発現が抑えられた287遺伝子の中に、細胞周期や細胞増殖に関わるE2F転写因子E2F-1、E2F-2と複数のE2Fターゲット遺伝子が含まれており、さらに、E2F-1のタンパク量についてHCT116とRKOで調べると、miR-34aの導入により発現が抑制されることが確認された。

このように、miR-34のp53による発現制御に関しては確認されているが、miR-34aによる細胞増殖抑制や細胞老化・アポトーシスの誘導のメカニズムは解明されていない。今後は、miR-34aが細胞増殖を止める詳細なメカニズムと発癌との関連を解析し、さらにmiR-34aによるRISCの細胞増殖抑制関与を解明し、miR-34aだけでなく多くのmiRNAによる発癌の新たなメカニズムの研究が待たれる。