ヘリコバクター・ピロリ菌は、主に幼少時の経口感染により胃粘膜内に定着し、長年にわたり胃粘膜を侵食し、萎縮性胃炎を引き起こし、やがて胃癌の発生母地となる。

胃癌患者のほとんどが、ピロリ菌感染または感染既往を有し、除菌により胃癌発生の確率は減少する。

このように、胃癌には、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が関与していることが知られているが、癌の発生に重要な細胞増殖の誘導に関与する詳細な機構は明らかではない。

今回、東京大学医科学研究グループは、microRNA-210発現が、ピロリ菌感染胃において顕著に抑制されていることを発見した。これは、ピロリ菌の慢性感染によりゲノムDNAにメチル化修飾が起きるためであることを示唆する。

さらに、ピロリ菌の感染によって、microRNA-210の発現が抑制され、癌遺伝子STMN1(Stathmin 1)の発現が上昇し、胃粘膜細胞の異常増殖が発生する機構が考えられる。

胃の病態形成に関わる本研究成果は、ピロリ菌による胃癌発症の原因解明に役立つと期待される。

また、microRNA-210を標的とした新規予防・治療法の開発に活用され、将来、microRNA-210を胃癌の早期診断のバイオマーカーとして使用することにより、異常が認められた場合に、次のステップとして侵襲性のある検査・治療へと移行する診断・治療体系が確立されるようになると思われる。