癌細胞から分泌される細胞外小胞(エクソソーム)のなかにmicroRNAと呼ばれる遺伝子が含まれることが発見され、創薬の標的として注目を集めているが、この機能を特異的に抑制することは不可能であった。

今回、細胞から体内に放出されるエクソソームに含まれるmicroRNAの働きを止める新しい技術が開発された。

この技術により、エクソソーム表面に結合する抗体と核酸医薬とを複合化することで、エクソソーム受容細胞への選択的な核酸医薬の送達と、エクソソーム含有microRNAの機能制御の、両方を達成することができる。

これらは、核酸医薬の実用化に際し、これまで最も大きな障壁であるDDSの問題を克服するだけでなく、核酸医薬に限らず様々な機能性核酸を標的細胞へ送達する手法として応用でき、また、ペプチドや中分子医薬品などの細胞内送達法として展開することが期待される。

細胞はエクソソームと呼ばれる細胞外小胞を放出し、これを生体内の別の細胞に取り込ませることで、癌細胞自身の増殖や転移を行っている。

エクソソームにはmicroRNAと呼ばれる小さな遺伝子が含まれており、エクソソームと共に別の細胞に取り込まれた後、癌の増殖・転移を促進すると考えられている。

しかし、エクソソームは全ての細胞に均一に取り込まれるのではなく、生体内の特定の細胞を標的として取り込まれるため、microRNAの働きを止めるanti-microRNA核酸を用いた方法は、エクソソームに含まれるmicroRNAには適用が困難であった。

このため、エクソソーム受容細胞へanti-microRNA核酸を選択的に送達するために、エクソソームの表面抗原に結合する抗体とanti-microRNA核酸とを複合化した新しい抗体結合型核酸が開発された。

このExomiR-Tracker は血液などの体液中でエクソソームと特異的に結合した後、エクソソームと一緒にエクソソーム受容細胞に取り込まれることも明らかになった。

さらに、その受容細胞内でエクソソームから放出されるmicroRNAの働きも制御することに成功し、エクソソームに含まれるmicroRNAを標的とした新しい癌治療薬として、今後の開発が期待される。

また、この技術は、核酸医薬に限らず様々な機能性核酸やペプチド、中分子医薬品などを標的細胞へ送達する手法としての展開も期待される。