日本における癌腫のうち大腸癌は最多であり、その原因は食事など生活習慣の欧米化が考えられているが、そのメカニズムは明らかではない。
ヒト一人の細胞数は約37兆個で、ヒト一人あたりの腸内細菌数はおよそ40兆個と言われ、重さにして約1~1.5 kgとされており、腸内環境における腸内細菌叢の変化が炎症性腸疾患など様々な疾患と関係することが、最近になって明らかになってきている。
例えば、口腔内で歯周病の原因菌として知られるFusobacterium nucleatumが、大腸癌患者の便中に特徴的に多数存在することが報告されている。
このように、便中メタゲノム解析により進行性大腸癌における特徴的な細菌は特定されていたが、前癌病変である腺腫や粘膜内癌などの大腸癌の発症の初期に関連する細菌については解明されていない。
今回、多発性腺腫や大腸癌を対象に、凍結便を収集しメタゲノム解析やメタボローム解析を行った結果により、多発性腺腫や早期大腸癌の便中における特徴的な細菌や代謝物質が同定され、本研究成果が、米国科学誌「Nature Medicine」に公開された。
それによると、Fusobacterium nucleatumやPeptostreptococcus stomatisは既に進行性大腸癌で上昇しており、Atopobium parvulumやActinomyces odontolyticusは多発性腺腫や粘膜内癌の病期でのみ上昇しており、これらの細菌が大腸癌の発症初期に関連することが強く示唆される。
このように、メタゲノム解析により、健常者と比較し、前癌病変や粘膜内癌の便に特徴的な細菌を特定したことに加えて、メタボローム解析により病変の進行に伴う腸内代謝物質の変動も検討し、大腸癌発症に関連する腸内環境が明らかにされた。
これにより、大腸癌を発症しやすい腸内環境が明らかとなり、食事等の生活習慣や腸内環境を改善することにより大腸癌を予防する先制医療が期待される。