家族性膵臓癌は、第一度近親者に2人以上の膵臓癌患者がいる家系の方に発症する膵臓癌である。

米国・Johns Hopkins大学での調査では、第一度近親者に膵臓癌発症者がいる家系とそうでない家系を比較すると、前者で10倍近く膵臓癌発症率が高いことが報告されている。

欧米では、家族性膵臓癌における関連遺伝子の解析が積極的に行われてきており、ATM、BRCA2、MLH1、MSH2、MSH6、PALB2、BRCA1、TP53などの関連遺伝子が発見されているが、日本を含むアジアにおいては網羅的な解析は行われていない。

今回、81人の家族性膵臓癌患者を対象に生殖細胞系列の全エクソーム解析を行うと、16%の患者において、ATM、BRCA2、MLH1、MSH2、MSH6、PALB2、BRCA1、TP53に病原性のある生殖細胞系バリアントを認めた。

また、これまでに報告のない遺伝子(ASXL1、ERCC4、TSC2、FAT1やFAT4)に81人のうち2人以上で病原性のある生殖細胞系バリアントを認めた。

ATM、BRCA1/2、PALB2の変異を有する癌種は、分子標的薬であるPARP阻害剤やプラチナ製剤が効果を示すことが知られており、本邦における家族性膵臓癌において、これらの遺伝子検査を行うことによって治療選択に有益な情報が得られる可能性があると考えられる。

また、膵臓癌の体細胞系遺伝子変異として高頻度にみられる癌抑制遺伝子であるSMAD4遺伝子に、病原性のある生殖細胞系バリアントも確認されている。

さらに、家族性膵臓癌症例の癌組織では、体細胞系の異常としてSMAD4遺伝子の欠失がみられ、免疫組織化学染色でSmad4タンパクの欠損が確認された。

約90%以上の通常型膵臓癌において、KRAS遺伝子の体細胞系変異を認めるが、本研究の家族性膵臓癌患者の癌組織におけるKRAS遺伝子の体細胞系変異は低率であった。

KRAS変異のない患者では、BRCA1、MLH1、SMAD4の病原性のある生殖細胞系バリアントやARID1Aの体細胞系変異を認めるため、一部の家族性膵臓癌は、通常の膵臓癌とは異なる発症機序で発癌している可能性が示唆された。

さらに、若年発症の膵臓癌患者の全エクソーム解析を行うと、MSH2、POLE、TP53やFAT4遺伝子に、病原性のある生殖細胞系バリアントが認められた。

今後、日本におけるより多くの大規模コホート研究、細胞株や動物等を用いた実証試験が必要であると思われる。

本研究成果は、米国科学誌「Annals of Surgery」に公開された。