B型・C型肝炎の減少に比べ、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)による肝癌が増加している。
がんの組織はがん細胞そのものだけでなく、線維芽細胞や免疫細胞など、様々な種類の細胞種が集まって「がん微小環境」を構成している。
進行したがん組織の微小環境ではがん細胞周囲の細胞ががんの増殖を助長していると考えられている。
大阪公立大学大学院医学研究科・病態生理学と肝胆膵病態内科学・慶應義塾大学先端生命科学研究所・広島大学大学院・統合生命科学研究科らの研究グループは、肝臓に移行した腸内細菌叢の成分であるリポタイコ酸が、肝がん微小環境を変化させてがんの増殖進展を促進するSASP(Senescence-associated secretory phenotype、細胞老化随伴分泌現象)因子を老化肝星細胞から放出させるメカニズムを明らかにした。
以前より、脂肪肝を素地とする肝がん微小環境では、肝星細胞と呼ばれる線維芽細胞が細胞老化を引き起こしており、「細胞老化随伴分泌現象(SASP)」という様々な分泌因子を放出する現象が生じ、その分泌因子(SASP因子)ががんの増殖を促進することは分かっていたが、SASP因子の放出メカニズムについては明らかではなかった。
本研究では、高脂肪食摂取による肥満誘導性肝がんのマウスモデルを用い、老化肝星細胞の細胞膜上にガスダーミンDというタンパク質が酵素切断されて生じたN末端側の部分(以降GSDMD-Nと略記)が集合して形成される小孔を介して、SASP因子に含まれるサイトカインIL-1βとIL-33が細胞の外部に放出されることを明らかにした。
また、高脂肪食摂取マウスでは、腸管バリアが脆弱化しており、肝臓にグラム陽性腸内細菌の細胞壁成分であるリポタイコ酸が蓄積しており、さらに蓄積したリポタイコ酸は老化肝星細胞にトル様受容体2(TLR2)を介した刺激を入れ続け、酵素切断で生じたGSDMD-Nによる細胞膜上の小孔形成とそれに続くIL-33やIL-1βの放出を促進していることも明らかにされた。
これにより、老化肝星細胞から放出されたIL-33は、その受容体ST2が陽性の制御性T細胞(Treg細胞)に作用し、がんの増殖を促進させることが示唆された。
また、GSDMD-NはヒトのNASH(Non-alcoholic steatohepatitis)肝がんの腫瘍部にある肝星細胞でもその存在が認められだ。これらの結果から、ガスダーミンDによる小孔形成を阻害する薬剤は肝がんの予防や治療につながる可能性が期待される。
本研究成果の詳細は、米国科学誌『Science Immunology』(IF = 17.727)電子版に掲載された。