がんは遺伝子の突然変異やエピゲノム異常(DNAメチル化異常)などが、細胞分裂後も消えずに、細胞の増殖や分化を制御する遺伝子が異常に働くことや、逆に働かなくなる(ドライバー変異)ことで発生する。

近年のがんゲノム解析で、多くのドライバー変異が発見された。

同時に、細胞の性質を直接変化させずに偶然見つかる突然変異(パッセンジャー変異)も非常に多数発見された。

また近年は、がん組織ではなく、正常な組織での突然変異の解析も行われるようになり、がん症例の正常に見える組織には既に微量の突然変異が存在することが明らかになってきている。

微量ながら、蓄積した突然変異の量と発がんリスクとが関連したり、突然変異のパターンを見ると喫煙歴や発がん物質への曝露と関連したりすることが示唆されている。

しかし、正常組織での遺伝子の突然変異の検出は実は難しく、がんはもともと1個の細胞が増殖したもので、がん細胞には1種類の細胞(クローン)しか存在しない。つまり、ある突然変異が存在する場合は、原則、全てのがん細胞に存在する。

従って、がん組織のDNAを解析すると、同じ突然変異が多くのDNA分子に共通して存在し、一方で、次世代シークエンス技術を用いた研究の際に避けられない実験上のエラー(PCR時のエラー、シークエンスの際のエラー)による偽の突然変異はごく一部のDNA分子にしか存在せず、本当の突然変異と実験上のエラーとは容易に区別できる。

一方、正常組織は、もともと、106を超える多数の種類の細胞(クローン)からなり、そのうちの1種類に突然変異が入る。

その場合、本当の突然変異と実験上のエラーによる偽の突然変異との区別が極めて困難になるため、解析する細胞の種類を少なくする方法や、実験上のエラーを少なくする方法が開発されてきた。

しかし、多数の検体を解析する際に重要となる「DNAでの解析」「低コスト」という条件を満たす方法はなく、特別な方法で準備した検体と莫大な解析費用が必要であった。

今回、国立研究開発法人国立がん研究センターは、正常に見える組織に蓄積した超低頻度の遺伝子の突然変異を正確に測定する方法を新規に開発し、小児肉腫患者の末梢血において、抗がん剤治療後に正常に見える血液細胞でも微量ながら遺伝子の突然変異が蓄積することを明らかにした。

本研究で新規測定法が開発され、二次性白血病の発症機構と考えられる突然変異の蓄積が確認されたことにより、今後、二次性白血病が生じるリスクの予測や、抗がん剤治療後に突然変異が蓄積しにくい治療法の開発が期待される。

本研究成果は、国際総合学術雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に掲載された。