炎症性腸疾患には、既に様々な治療薬があるが、根治的治療法はない。
また、大腸がんに対しても、内視鏡的または外科的以外には抗がん剤治療が主体となり、ただ、副作用や耐性などの問題点があり画期的な治療法は存在しない。
今回、慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)らの研究グループは、ヒト大腸の増殖を司る幹細胞は、マウスと比較して多くが休止期状態にあることを発見し、炎症からの再生における重要性を初めて解明した。
これまで腸管幹細胞の研究は主にマウスを用いて解明されてきたが、ヒト大腸における幹細胞の役割については、実験モデルがなく不明であった。
遺伝子編集したヒト大腸細胞をマウスの大腸内に移植し、大腸幹細胞が休止期を経てゆっくり増殖すること、炎症時にも生き延びて、再生過程で増殖することを明らかにした。
また、ヒト大腸の増殖速度が遅い原因としてTGF-βシグナルが関与していることが示唆された。
本研究は、ヒト大腸幹細胞が定常時および炎症からの再生時に、それぞれどのように働くのかを初めて明らかにしたものであり、今後、炎症性腸疾患や大腸がんの根治を目指す上で新たな治療開発の足掛かりとなることが期待される。
本研究成果は、米科学誌 Gastroenterology のオンライン版に掲載された。