microRNA
近年、全く新しいカテゴリーのRNAが発見されました。それがmicroRNAです。
microRNAは、細胞内に存在する18~25塩基長ほどの小さなRNAのことで、多くの細胞周期の発現を調製する機能を持っていると考えられています。多くのRNAはゲノムから転写され、翻訳のプロセスによりタンパク質が合成されますが、このmicroRNAはタンパク質に翻訳されないノンコーディングRNAの1種です。
microRNAの抗がん作用として、これまでの研究で主に以下の2つが明らかになっています。
1つは、標的メッセンジャーRNAのタンパク質への翻訳阻害作用です。癌細胞が分裂して増殖する際、癌細胞のDNA配列がメッセンジャーRNAという1本鎖RNAによってコピーされます。癌細胞のDNA配列をコピーしたメッセンジャーRNAにアミノ酸が結合することでタンパク質が合成され、癌細胞が分裂します。microRNAはこのメッセンジャーRNAに結合し、アミノ酸がメッセンジャーRNAと結合することを阻害します。これによって癌細胞のDNA配列をもったタンパク質は合成されず、分裂・増殖が抑制されます。分裂できない癌細胞はやがて寿命で自然死(アポトーシス)へと導かれます。
もう1つは、癌細胞の正常化(初期化)という作用です。癌細胞にmicroRNAを導入すると、その悪性度を喪失させて正常細胞へと形質転換できる、すなわち「癌細胞が正常細胞へ戻る」というものです。これについてのメカニズムの解析が現在も進められています。
ヒトでは2,000種類以上のmicroRNAが同定され、ヒト生命現象のうち1/3が、これらのmicroRNAによって制御を受けるとされています。したがって、 microRNAの発現量が低下したり、microRNAに何らかの異常が生じれば、癌を中⼼とするヒトの疾患の発⽣や進展に⼤きく影響を及ぼします。
「microRNAの歴史」
- 1993年
- 最初の発見
The C. elegans heterochronic gene lin-4 encodes small RNAs with antisense complementarity to lin-14. Lee, R. C. et al.:Cell, 75:843-854
Posttranscriptional regulation of the heterochronic gene lin-14 by lin-4 mediates temporal pattern formation in C. elegans. Wightman, B. et al.:Cell, 75:855-862
- 1998年
- RNA 干渉
Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans.
Fire, A. et al.:Nature, 391:806-811
- 2000年
- microRNAが種を超え保存されていることを示唆
Conservation of the sequence and temporal expression of let-7 heterochronic regulatory RNA. Pasquinelli, A. E. et al.:Nature, 408:86-89
- 2003年
- microRNAの命名と分類
A uniform system for microRNA annotation. Victor, A. et al.:RNA, 9: 277-279
- 2004年
- microRNAと癌化
Human microRNA genes are frequently located at fragile sites and genomic regions involved in cancers. Calin, G. A. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101: 2999-3004
- 2006年
- RNA干渉の発見により、Andrew S.Fire氏とCraig C.Mello共に2006年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
(1998年のFire,MelloらによるRNA干渉(RNA interference: RNAi)の報告)
- 2007年
- mirtonの発見
Intronic microRNA precursors that bypass Drosha processing. Ruby, J. G. et al.:Nature, 448:83-86
The mirtron pathway generates microRNA-class regulatory RNAs in Drosophila. Okamura, K. et al.:Cell, 130:89-100
Mammalian mirtron genes. Berezikov, E. et al.:Mol. Cell, 28:328-336
- 2008年
- 脊椎動物の複雑性とmicroRNA
MicroRNAs and the advent of vertebrate morphological complexity. Heimberg, A. M. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105:2946-2950
- 2009年
- Pre-microRNA核外輸送複合体の高分解能構造
A High-Resolution Structure of the Pre-microRNA Nuclear Export Machinery.
Tomitake ,T. et al. Science vol.326 1275-1279
- 2017年
- 1滴の血液に含まれるマイクロRNAを計測して、がんを簡単に早期診断できる画期的な次世代診断システムの開発を目指す 国立がん研究センター