microRNA封入ナノ粒子による癌治療
全ての生命情報は細胞内のDNAに保存・蓄積されています。
microRNAはこの生命情報を継承するDNAの複製時の設計調整を担う物質です。[図1]
まず核内のDNA情報をコピーしたmRNAにより、細胞質内において同一のDNA情報が複製されます。この時、設計図の最終調整を行うのがmicroRNAです。microRNA発現量が減少すると、設計図を基に行われるDNA複製を制御できず、異常なタンパク質が合成されたり、分裂した細胞も癌化すると考えられています。
[図1] microRNA
したがって、microRNAを補充することにより、正常なDNA複製が行われ、異常タンパクの合成を阻害することが可能です。【詳しくはこちら】
ただ、microRNAは直接血管内に投与すると破壊されるため、ナノサイズの粒子に封入・保護します。[図2]
[図2] microRNA封入ナノ粒子
このmicroRNA封入ナノ粒子は100ナノ以下のため正常血管外へ漏出せず、また監視機構(網内系)に捕捉・処理されないため血管内を滞留しながら循環し続け、順次、癌組織へ到達します。[図3] ※DDS(Drug Delivery System)とは必要な薬剤を必要な量・時間だけ目的組織へ送達する治療法
[図3] DDS(Drug Delivery System)
到達したmicroRNA封入ナノ粒子は、癌組織内の粗造な血管壁を浸透し癌組織内部に集積します。(EPR効果)[図4]
[図4] EPR効果 (Enhanced Permeability and Retention effect)
microRNA封入ナノ粒子はグルコースを含有しているため、癌細胞表面に過剰発現しているGLUT(グルコース輸送蛋白)により癌細胞内部に取り込まれ、エンドソーム内の酸性環境(pH6.0)以下にて崩壊しmicroRNAが放出され癌細胞は自然死(アポトーシス)、または元の正常細胞に戻ります。[図5]
[図5] 癌細胞による貪食作用
抗癌剤により癌細胞を殺傷するという従来の方法とは全く異なった治療法です。
現在、癌に対するmicroRNA治療は全世界の医療施設・研究機関において多くの試みがなされており、先端医療としての期待も高く、癌治療の最前線に位置づけられています。