肺癌は、肺胞細胞や気管支が癌化したもので、進行すると、周りの組織に浸潤増殖し、血液やリンパ液の流れにのって転移することもある。

転移しやすい場所はリンパ節、反対側の肺、骨、脳、肝臓、副腎であると同時に、肺は他の臓器で発生した癌が転移しやすい場所であり、転移性肺癌として一般的な原発性肺癌とは区別される。

非小細胞肺癌と小細胞肺癌の2つに大きく分けられ、発生頻度が高いのは非小細胞肺癌で、その中でも最も多いのが腺癌であり、小細胞肺癌は、非小細胞肺癌と比べて増殖速度が速く、転移や再発を伴いやすい腫瘍である。

発生要因として、喫煙が挙げられるが、非喫煙者は喫煙者に比べ一般的に遺伝子変異数が少なく、発症原因や治療標的が明らかでないため、研究開発が強く求められている。

肺腺癌は、遺伝子解析技術の進歩により、KRAS, EGFR, ALK, RET, ROS1, BRAFなどの遺伝子変異と関連がある癌として注目され、分子標的治療薬による治療も著しく進歩している。

今回、非喫煙者・軽喫煙者の肺腺癌において、従来の検査では明らかな癌遺伝子 (KRAS, EGFR, ALK, RET, ROS1の遺伝子変異)が発見されなかった症例を対象に、次世代シークエンサーによる全エクソーム解析・全トランスクリプトーム解析を行った結果が報告された。

それによると、解析した症例の約70%に従来の検査では同定できなかった標的となり得る癌の遺伝子変異を同定することができ、特に全く新たな癌遺伝子として、NRG2融合遺伝子が発見された。

これまでにNRG1遺伝子については、その融合遺伝子が肺腺癌で報告されており、癌細胞に異常増殖シグナルを送り続けることにより、発癌に寄与することが知られていたが、NRG2遺伝子については明らかではなかった。

NRG1融合遺伝子の異常な増殖シグナルを抑える抗癌剤の開発が進んでおり、現在、国際臨床試験の開始が予定されているが、NRG2融合遺伝子もNRG1と同様のメカニズムで癌化を誘導している可能性が高いため、NRG1融合遺伝子とともに治療の標的となり得ることが期待される。

また、他のNRGファミリーメンバーであるNRG3, NRG4融合遺伝子の存在の可能性も、今回のNRG2融合遺伝子の発見により示唆された。

これにより、NRG融合遺伝子を有する癌に対する抗癌剤の効果が、臨床試験で証明され、また今後はより多くの患者に分子標的が同定され、最適な治療法の確立が促進されることが期待される。

本研究成果は、米国科学雑誌「Journal of Thoracic Oncology」に掲載された。