個人間におけるゲノム配列の違いである遺伝子バリアントのうち、疾患の発症と大きく関わるものを病的バリアントといい、病的バリアントが原因で発症する癌患者は、全体の5~10%を占める。

例えば、BRCA1やBRCA2のような特定の遺伝子に病的バリアントを保有していると、乳癌や卵巣癌のリスクが高くなるが、PARP阻害剤などの薬が効果的であり、また、病的バリアントの有無は患者の近親者にとっても重要であるため、遺伝学的検査を行うことで発症リスクを評価し、早期発見のための検診や健康管理を行うことができる。

今回、大腸癌、乳癌、前立腺癌の早期発症患者を含む日本人集団を対象に、全ゲノムシーケンス解析を行い、NCCNガイドラインに指定されている遺伝子が日本人集団にも重要であるか評価を行った。

バイオバンク・ジャパンで収集された大腸癌、乳癌、前立腺癌の早期発症者を含む日本人1,037人の全ゲノムシークエンス解析を行った結果、NCCNガイドラインで各疾患の遺伝学的検査の対象に指定されている遺伝子に病的バリアントを保有する日本人患者の割合は、乳癌、大腸癌、前立腺癌の順に高いことが明らかになった。

さらに、NCCNガイドラインに指定されていない遺伝子も調べるため、CGCデータベースに含まれる98遺伝子を解析すると、前立腺癌患者に病的バリアントが多く検出され、これらの結果により、NCCNガイドラインに指定された遺伝子は日本人集団に対する検査でも有用であるが、前立腺癌ではその他の遺伝子も検査する必要があることがわかった。

日本人の大腸癌、乳癌、前立腺癌患者らの全ゲノムシークエンス解析を行い、各癌の遺伝学的検査に対する有効性を検証した本研究成果は、各癌におけるオーダーメイド医療の実現に貢献することが期待できる。

本研究は、科学雑誌『JCO Precision Oncology』のオンライン版に掲載された。