癌の発生にはさまざまな要因が考えられているが、そのなかで染色体のDNA異常はもっとも大きな要因の一つである。
相同組換え因子BRCA2やRad51はDNA損傷の正常な修復機能を有する。
そのため、これら遺伝子の機能不全により染色体異常が起こり、細胞が癌化する。例えば、BRCA2遺伝子などに変異を持つ女性の約7割は乳癌を発症すると推定されているが、発癌のリスクに関与する染色体異常が起きる分子メカニズムは解明されていなかった。
今回、DNAアニーリング活性が特異的に低下した変異型Rad52-R45Kを作成し、分裂酵母を用いて染色体異常の発生頻度を定量測定し、その結果、Rad52のDNAアニーリング活性がゲノム上の反復配列を「のりしろ」にした染色体異常の発生に必要であることが明らかにされた。
さらに、Rad52による染色体異常は、通常、DNA複製装置によって抑止されていることが示唆されており、マウスではRad52を阻害すると発癌率が低下し、また、ヒトの癌細胞ではRad52遺伝子のコピー数が増加している症例が報告されている。
そのため、哺乳動物においても、Rad52は染色体異常を誘発する「がん遺伝子」として働くと考えられる。
今後、BRCA2などの遺伝子変異により生じる遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)の治療薬の開発がより一層進むことが期待される。
本研究成果は、Springer Nature社のオープンアクセス・ジャーナル「Communications Biology」に公開された。