キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)とは、モノクローナル抗体の抗原結合の特性を利⽤した⼈⼯的な細胞受容体である。すなわち、CAR遺伝子は、マウスのモノクローナル抗体の可変部位の遺伝⼦配列と、ヒトのTリンパ球が持つ種々の受容体の遺伝⼦断⽚をつなぎ合わせることにより作成された人工受容体である。CAR遺伝⼦をウイルスベクターに搭載しヒトのTリンパ球に遺伝⼦導⼊すると、Tリンパ球は CAR、すなわち癌細胞を検知する⼈⼯のアンテナを細胞表⾯に出すことが可能となる。

CART細胞療法は、遺伝⼦⼯学技術により患者リンパ球に CAR遺伝⼦を挿⼊することにより癌細胞を死滅させる機能を持たせた後、宿主の生体内内へ点滴で戻す治療である。

⽩⾎病やリンパ腫の表⾯に存在する CD19 を標的としたCAR-T細胞療法は、⽩⾎病、リンパ腫、⾻髄腫などの⾎液癌では効果を発揮しているが、固形がんでは標的として⽤いることができる表⾯タンパクが多くないために有効性については明らかではない。

今回、新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野のグループにより、NK細胞を使用したCAR-T細胞療法についての報告がなされた。

まず、T細胞にはなく NK細胞のみが有する受容体NKp44の抗原認識部位を⽤いて新たなCAR 遺伝⼦を作成した。

NKp44は、マウスにはなくヒトのNK細胞のみが持っている受容体で、そのスイッチとなるリガンドは正常細胞にはほとんどなく、癌細胞では種類を問わず⾼率に発現するという特徴を持つ。

本研究では、ヒトNKp44受容体の抗原認識部位の遺伝⼦を⽤いて様々なデザインのCAR遺伝⼦を作成し、ヒトTリンパ球およびNK細胞における機能を指標にその構造を最適化し、対象固形癌として⼩児固形腫瘍(神経芽腫、⾻⾁腫、ユーイング⾁腫、横紋筋⾁腫、神経膠腫)や急性⾻髄性⽩⾎病を⽤いて効果を検討すると、NKp44-CAR を遺伝⼦導⼊したヒトT細胞は、ヒトNK細胞のように、⾮常に幅広い悪性腫瘍細胞を認識してサイトカインを放出し、癌細胞を死滅させた。そして、同じ健常成⼈から提供されたNK細胞と⽐較した場合、このCAR-T細胞が圧倒的に強⼒に癌細胞を殺傷した。

今後、より症例データを積み重ね解析していくことで癌新規治療に結び付けていくことが期待される。