癌細胞は、ワ―ルブルグ効果と呼ばれる解糖系代謝が亢進している特徴を有し、それを利用して、臨床検査においても、この解糖系代謝亢進を指標とした放射性物質を標識化した糖質である FDG-PET を投与し癌組織内部へ取り込ませて描出する検査が普及している。

放射性物質の代わりに、解糖系代謝を標的とした抗癌剤治療を用いた治療も開発されているが、解糖系代謝は通常細胞においても重要なエネルギー供給の代謝経路であるために、単なる解糖系阻害剤は副作用が大きく実用化されていない。

今回、10 個の解糖系酵素の中の一つであるホスホグリセリン酸ムターゼ(PGAM)の多面的な生物学的効果に注目し、PGAM を標的とした治療法開発のため、癌におけるワールブルグ効果と PGAM の関連を検証するプロジェクトが実施された。

まず、PGAM モデルマウスの解析より、発癌における解糖系代謝亢進において PGAM が重要であり、また、PGAM と結合する新規蛋白質として Chk1 キナーゼが発見された。

細胞増殖のブレーキとして働くシグナル伝達因子であるChk1とPGAMの結合は、通常細胞ではなく癌細胞で発現亢進が認められ、PGAM と Chk1 が結合する条件では解糖系代謝が亢進し、逆にその結合を阻害すると癌の増殖や解糖系代謝が低下した。

PGAM と Chk1 の結合による解糖系代謝亢進には、PGAM の酵素活性は関与していなかった。

これらにより、癌特有のワールブルグ効果の分子機構を解明し、副作用の少ない解糖系代謝調整薬の開発への道が開かれ、PGAM の非酵素活性により、通常細胞の解糖系には影響を与えずに、癌でのワールブルグ効果阻害剤の開発が期待できる。本成果は、米国の国際学術誌「iScience」にプレプルーフ版がオンライン掲載された。