成人 T 細胞白血病リンパ腫(ATL)は、進行の速い難治性造血器腫瘍である。
そのため、診断時には約 9 割の症例で血液中以外にリンパ節や臓器浸潤などへの転移を認める。
近年、従来の抗癌剤治療以外に、ATL 細胞に発現する CCR4 タンパク質を標的とした分子標的薬モガムリズマブが標準治療として使用され、治療成績の改善が得られてきている。
しかし、抗CCケモカイン受容体4ヒト化モノクローナル抗体であるモガムリズマブは、血液中の ATL細胞 には効果的であるが、リンパ節などの非血液中の ATL病変では効果が十分である。
今回、名古屋大学大学院医学系研究科 腫瘍生物学分野の研究グループにより、リンパ節と血液中の ATL 細胞のサイトカイン・増殖成長因子の発現比較解析を行い、腫瘤病変の形成に関わる遺伝子の発現制御メカニズムと標的治療薬の有用性の検討結果が報告された。
リンパ節由来 ATL 細胞株と血液由来 ATL 細胞株のタンパク質アレイ解析 より、リンパ節由来細胞株で発現が高く、またオートクラインに作用する因子として HGF が抽出された。
同一患者のリンパ節および末梢血を用いた解析により、HGF 発現 ATL 細胞は血液中よりもリンパ節内で多く占めていることが明らかになった。
リンパ節 ATL 細胞株ではこの HGF/c-Met シグナルは活性化状態にあり、HGF 発現のない血液由来細胞株に HGF 遺伝子を導入すると、in vitro においてリンパ節由来細胞株と同様に下流シグナルの活性化が生じ、細胞増殖、浸潤が促進され、マウス xenograft モデル では腫瘤形成を認めた。
リンパ節、血液由来 ATL 細胞株それぞれの HGF 遺伝子の発現制御領域を解析すると、リンパ節 ATL における活性化ヒストンマーカー(H3K27Ac)および H3K27Ac の転写に関与するBRD4 が豊富であることより、BRD4 の阻害薬である JQ1 を投与すると、HGF 発現の有意な低下、下流シグナルの不活性化が生じ、細胞増殖は抑制された。
さらに、リンパ節由来 ATL 細胞株を移植したマウス xenograft モデルの JQ1 治療では、対照群に比べ有意に腫瘤縮小および臓器浸潤が抑制された。
また、モガムリズマブ投与を受けた患者の予後解析では、血清 HGF 濃度が高いほど全生存期間、無増悪生存期間いずれも不良であることが明らかになった。
これらより、HGF 発現はモガムリズマブ治療奏効の予測マーカーとなる可能性が示唆され、治療抵抗性症例へのブロモドメイン阻害剤が新規治療薬として有用である可能性が明らかになった。