肺腺癌の間質浸潤及びそれに伴う癌間質の形成におけるGPI アンカー型膜タンパク質 CD109の間質浸潤のメカニズムをについての報告がなされた。
ヒト肺腺癌組織の免疫組織化学染色にて、CD109 が正常肺胞上皮あるいは腺癌の非浸潤性病変では陰性である一方で、間質の膠原線維(コラーゲン)の増生を伴う浸潤性病変の癌細胞に陽性となることが明らかになった。
また、CD109 の発現レベルは、肺腺癌患者の術後の生存率の悪化に関与していた。肺腺癌発症マウスモデルで CD109 を欠失させると、浸潤と間質の反応が少ない予後の良い腺癌を発症することが確認され、また、ヒト肺癌細胞に CD109 を発現させると浸潤しやすくなることも発見された。
これらより、癌細胞に発現するCD109 が肺腺癌の間質浸潤制御因子であることが明らかになった。
次に、CD109 の結合分子を網羅的に検索し、間質タンパク質 LTBP1(latent TGF-β binding protein)を同定された。
LTBP1 は活性のない潜在型 TGF-β に結合するタンパク質で、他のタンパク質との相互作用によって TGF-β を活性型として放出する機能を持っている。
活性型 TGF-β の定量実験では、CD109 が LTBP1 存在下で TGF-β の潜在型から活性型への転換を促進することが明らかになり、また、ヒト肺腺癌組織では、CD109 と LTBP1 が共に強く発現する領域で TGF-β シグナルが促進されていた。
これにより、CD109 による肺腺癌の間質浸潤制御の機序として LTBP1 を介する TGF-β 活性化機構が関与していることが示唆された。
今後は、CD109 が肺腺癌の間質浸潤マーカーとして病理診断に応用できる可能性が考えられ、また、CD109 を標的とした治療を開発により予後の悪い浸潤性肺腺癌に対する治療の新たな選択肢となる可能性が期待される。
本研究成果は、日本癌学会機関誌「Cancer Science」のオンライン版で公開された。