PD-1やCTLA-4をはじめとした免疫チェックポイント分子は、免疫細胞表面に発現しており、免疫細胞の暴走を阻止する働きを有するため、逆に腫瘍細胞に対する免疫反応を負に調節し、結果として腫瘍細胞の分裂・増殖を促進することにつながる。

近年、それらの分子の働きを阻害する免疫チェックポイント阻害療法(ICB)が、新たな癌治療法として確立され、外科療法、薬物療法、放射線療法に次ぐ第4の手法としてその適応対象が臨床において拡大している。

しかし、ICBの治療効果は癌種や癌微小環境、また、生体内の免疫環境等に大きく依存し、治療感受性を示す患者は治療を受けた患者全体の20~30%に留まるといわれています。そのため、ICBに対する治療抵抗性を解除し得る方法が日々模索されています。

液性生理活性因子であるIL-34の発現は、正常なヒトにおける脳や皮膚に限定される。

今回、ICB治療抵抗性とIL-34の関係性についての報告がなされた。

マウスを由来とする3種の卵巣・大腸・乳癌細胞を遺伝子編集手法であるCRISPR-Cas9システムを用いてIL-34をノックアウトした株として作製した。

これらの細胞株を実験用マウスの皮下に移植して腫瘍を形成させ、ICB治療後に腫瘍の大きさを経過観察することで、癌細胞由来IL-34の有無によって生じるICB治療効果の差を比較した。

IL-34を産生する腫瘍がICB抵抗性を有するのに対し、その発現を消失させた腫瘍はICB治療に対し感受性を示すことが明らかになった。

また、癌細胞由来のIL-34を欠損した癌微小環境において、抗腫瘍免疫の活性化に関わる様々な液性生理活性因子の遺伝子発現が上昇していることも確認された。

次に、腫瘍内に浸潤する免疫細胞の動態を解析することで、癌細胞由来のIL-34の発現阻害が、免疫応答を活発化する炎症性マクロファージと、癌を攻撃する働きを担うT細胞の腫瘍内における割合を増加させることが明らかになった。

また、IL-34陽性腫瘍に対し、抗IL-34抗体治療及びICB治療を行う群の腫瘍は、ICB単剤による治療群と比べ、縮小することの示唆された。

さらに、体内の免疫系がヒトに置換されている特殊なマウスを用いた実験では、抗ヒトIL-34抗体及び抗ヒトPD-1抗体の併用療法を行う群の3匹中2匹で、比較群よりも腫瘍が縮小した。

これらより、癌細胞から産生されるIL-34を標的とした治療は、ICB抵抗性癌種に対して有用な新規治療法となる可能性があると考えられる。

本研究成果は、iScience誌にオンライン掲載された。