胚細胞腫瘍は、生殖器である精巣・卵巣と生殖器以外の縦隔・後腹膜・仙骨部・脳(松果体、神経下垂体部)などに発生しやすい悪性腫瘍の1つである。

好発年齢は10歳代から30歳代で、小児期に発生する半数は生殖器以外の部位から発生するが、青年期に発生する場合には生殖器・特に男性の精巣発生が9割以上を占める。

胚細胞腫瘍には複数のサブタイプが存在し、全体的な治療成績としてはほとんどが予後良好な悪性腫瘍である。

しかし、抗癌剤や放射線治療を施行した小児の転移性難治性胚細胞腫瘍では、後年になって晩期障害を合併することが近年問題となってきている。

特に、胚細胞腫瘍は性線に発症することが多いことため、手術による性線摘出のため性線機能の低下や将来的な不妊症も懸念される。

また、成人胚細胞腫瘍の多くが精巣に発症し、治癒率が悪いとされている。

今回、次世代シーケンサーとマイクロアレイを用いて DNA メチル化や遺伝子発現、遺伝子変異、コピー数などのゲノム、エピゲノムに見られる異常の全体像についての解明が報告された。

小児胚細胞腫瘍組織 51 検体から DNA、RNA を抽出した解析を行った結果、胚細胞腫瘍はサブタイプごとに特徴的な DNA メチル化パターンを有しており、このパターンはそれぞれの分化度に対応していた。

胚細胞腫瘍のサブタイプの一つである卵黄嚢腫瘍は年少児と年長児で異なる DNA メチル化パターンを有しており、年少児と年長児では異なる生物学的特徴を有していることが示唆された。

また、遺伝子発現もサブタイプに応じたパターンを有していたが、最も未分化なサブタイプであるジャーミノーマと分化が進んだ胎児性癌は同様の発現パターンを有しており、共通の発がんメカニズムを有していると考えられた。

胚細胞腫瘍のサブタイプであるジャーミノーマ、奇形種、卵黄嚢腫瘍はそれぞれ発症部位、年齢によって異なるコピー数異常を有しており、ジャーミノーマは KIT 遺伝子、胎児性癌は TNFRSF8 遺伝子、卵黄嚢腫瘍は ERBB4 遺伝子にそれぞれ特徴的な遺伝子変異、発現パターンを有しており、これらの遺伝子は分子標的治療の対象となることが明らかになった。

これらより、小児胚細胞腫瘍がそのサブタイプごとに特徴的な分子標的治療の対象となりうる遺伝子を有しているため、新たな分子標的治療の導入によって抗癌剤や放射線の減量が可能となり、晩期障害の軽減につながるものと期待できる。

本研究は、英国科学誌Communications Biology に掲載された。