膵癌の発生率および死亡率は本邦だけでなく世界的に増加しており、発見時には手術適応外の場合も多く5年生存率が極めて低い癌腫である。
膵癌症例の約10%は遺伝的素因が関与している家族性膵癌であり、その数%は一つの膵癌発症に繋がるゲノム配列異常である病的バリアントによるものと考えられている。しかし、1,000症例以上の膵癌患者において病的バリアントを解析した研究は少なく、ゲノム情報を用いた医療発展の妨げになっている。
今回、日本人の膵癌について原因遺伝子や病的バリアントと関連する臨床情報を大規模なサンプルを用いて明らかにし、膵癌のゲノム医療につながるデータを生み出すと同時に、現在のガイドラインの日本人患者への適用性が調査された。
膵がんのNCCNガイドラインにおける検査推奨11遺伝子を含む計27個の遺伝性腫瘍関連遺伝子について、ゲノム解析手法を用いて、バイオバンク・ジャパンによって収集された膵癌症例1,009人のDNAを解析した。
その結果、3,610個の遺伝子バリアントを同定し、さらに、これらの遺伝子バリアント一つ一つを米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)が作成したガイドラインおよび国際的データベースClinVarに基づいて病的バリアントか否かを分類したところ、205個の遺伝子バリアントが病的バリアントであると判定された。
これらの病的バリアントの遺伝子ごとの保有割合を疾患群のデータと大腸癌のゲノム解析において作成した対照群23,780人のデータで比較したところ、BRCA1/2、およびATMの3遺伝子が膵癌発症と関連することが統計学的に明らかとなった。
次に、これら3遺伝子における病的バリアントの有無と膵癌発症後の生存期間の関係を調べたところ、病的バリアントの有無は生存期間に影響しないことが明らかになった。
また、診断年齢との関係を調べたところ、病的バリアント保有者は発症年齢が下がる傾向は認められなかった。
一方で、病的バリアント保有者は、胃癌や卵巣癌の家族歴を高頻度で保有しており、また重度なリンパ管侵襲を示す傾向があることが明らかになった。
今回明らかにした遺伝子・疾患発症リスク・臨床情報の大規模データは、今後、膵症例にあった各ゲノム医療体制を構築する上で重要な情報になると期待できる。
本研究は、オンライン科学雑誌『EbioMedicine』に掲載された。