神経膠腫は腫瘍周囲の正常組織内へびまん性に浸潤するため、外科手術で完全切除できない場合が多く予後不良な癌腫のひとつである。
脳幹部小児びまん性グリオーマではヒストンH3K27M変異を認めるため、びまん性浸潤を呈し、MRI画像における病変部の確定は困難なことが多い。
今回、ヒストンH3K27M変異導入したマウスグリア細胞(IG27細胞)をマウス頭蓋内へ移植したPSを伴うびまん性グリオーマのマウスモデルによる研究報告がなされた。
電子顕微鏡によるグリオーマのPSを3次元で撮影し、IG27細胞の網羅的遺伝子解析のためマイクロアレイを行うと、IG27細胞は野生型細胞と比較してグルコーストランスポーター1(Glut1)の上昇を認めた。
shRNAを用いたGlut1ノックダウンIG27細胞、発現プラスミドを用いたGlut1発現過剰野生型細胞を作製し、マウス脳に移植すると、Glut1抑制IG27細胞は通常IG27細胞より生着腫瘍細胞数が有意に減少し、また、PSの頻度が有意に減少し、さらに、Glut1発現過剰野生型細胞でPSの再現性を認めた。
上記により、Glut1がPSを制御していることが示唆された。
また、ヒトグリオーマ組織66例でGLUT1の発現を免疫組織化学で評価すると、66.7%で陽性となり、多変量解析の結果、GLUT1陽性症例で有意に無増悪生存期間が短縮した。
さらに、IG27グリオーマモデルを用いてdynamic nuclear polarization(DNP)-MRIによるレドックス代謝の評価を行うと、MRIによる形態的な診断では描出できなかったびまん性浸潤をDNP-MRIによるレドックス代謝で検出が可能となった。
今後は、超偏極イメージング装置dynamic nuclear polarization(DNP)-MRIを用いた生体酸化還元(レドックス)代謝画像が描出不可能であったびまん性浸潤を呈する神経膠腫の伸展範囲の描出に有用である可能性が示唆される。
本件研究成果は、欧州神経腫瘍学雑誌のオープン・アクセス誌「Neuro-Oncology Advances」に掲載された。