本邦における死亡原因第1位である肺がんの約 4%に、ALK という遺伝子が他の遺伝子と融合することを原因とする肺がん(ALK 融合遺伝子陽性肺がん)が存在する。

ALK は融合遺伝子となることで強い生存シグナルを発するようになるため、ALK の機能を抑えるアレクチニブという分子標的薬が有効である。

このアレクチニブは、約 9 割の ALK 融合遺伝子陽性肺がんに劇的に効果を発揮し腫瘍を縮小させるが、一部の症例では効果が持続せず早期に再発する。

がん抑制遺伝子である TP53 の変異を有する症例において、ALK に対する分子標的薬の効果が低下すると考えられており、今回、TP53 変異の ALK 融合遺伝子陽性肺がんについて解析し、分子標的薬アレクチニブにさらされた腫瘍細胞が抵抗するメカニズムを再現し、その抵抗性を解除する治療法について報告がなされた。

肺がん遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM」のデータベースを活用し、日本人における TP53 変異の ALK 融合遺伝子陽性肺がんのデータを解析した。

ALK 融合遺伝子陽性肺がん症例の 25%に TP53 の変異があり、さらに、ALK 阻害薬未治療の TP53 野生型と変異型の患者群において、アレクチニブの治療効果を比較すると、変異型では明らかに治療効果の持続期間が短いことが明らかになった。

次に、変異型の ALK 融合遺伝子陽性肺がんに対して、野生型 TP53 を導入すると、アレクチニブに対する感受性が増強するため、TP53 の活性がアレクチニブの効果に強く関与することがわかった。

がん抑制遺伝子である TP53 は、アポトーシスを誘導する重要な遺伝子であり、アポトーシスを促進するタンパクである Noxaがプロテアソーム阻害薬によって蓄積することにより、抗アポトーシス蛋白である Mcl-1に結合・阻害し、強いアポトーシスを惹起する。

これにより、TP53 変異の ALK 融合遺伝子陽性肺がん症例に対し、治療当初からプロテアソーム阻害薬を分子標的薬に併用することで、腫瘍を縮小し、根治あるいは再発までの期間を延長させることが期待できる。

本研究成果は、米国科学誌『Clinical Cancer Research』のオンライン版に掲載された。