軟部肉腫は、肺や肝臓など様々な臓器と骨や皮膚を除いた筋肉、腱、脂肪、血管、リンパ管、関節、神経などの軟部組織に発生する稀な悪性腫瘍である。
様々な年齢層に発生し、最近は高齢者に多く発生する傾向がみられる。
治療には化学療法、外科手術、放射線治療を組み合わせた治療が行われているが、転移症例では5年生存率が30%以下と極めて難治性であり、新たな治療法開発が待たれている。
化学療法に抵抗性を示す難治性の軟部肉腫には二次治療としてパゾパニブ、エリブリン、トラベクテジンなど複数の新規薬剤の使用が国内で承認されているが、それら二次治療薬剤は効果が認められない場合があり、副作用が生じることもあるため、薬剤の効果予測や患者の遺伝情報に基づいた個別化医療が期待されている。
今回、これまで不明であったパゾパニブの効果と患者の遺伝情報(ゲノム背景)との関係を明らかにし、進行軟部肉腫の新規個別化医療を開発することを目的とした研究成果が報告された。
進行軟部肉腫にパゾパニブを使用し、短期間で顕著に効果のあった稀な症例の腫瘍検体および正常組織に対して次世代シークエンサーなどを用いた統合的解析を行い、遺伝子変化とパゾパニブの治療標的である受容体チロシンキナーゼのタンパク質リン酸化変化を調査した。
その結果、チロシンキナーゼの一種であるPDGFRBタンパク質のリン酸化上昇とGLI1、 CDK4遺伝子を含む染色体のコピー数増幅および複数のチロシンキナーゼ遺伝子変異を腫瘍部に同定することに成功し、それら遺伝子変化の癌化能を検証したところ、GLI1遺伝子コピー数増幅のみに癌化能を認めた。
その検証実験としてがんクリニカルシークエンスと定量的PCRをパゾパニブ治療効果と臨床情報が紐付いた高悪性軟部肉腫に対して行ったところ、パゾパニブに効果を示した症例にのみGLI1遺伝子の高発現が認められ、また、GLI1遺伝子を導入した細胞株実験でもパゾパニブの濃度に従ってGLI1遺伝子の増殖が抑制されることが明らかになった。
これにより、ゲノム医療時代における高悪性軟部肉腫の治療に大きく道を拓く可能性が示唆された。
本研究は米国の整形外科治療の科学誌「Clinical Orthopaedics and Related Research」オンライン版で発表された。