1 mlの血液中には、全ての細胞から産生される50-150 nmサイズの微粒子である数百億個から数兆個のエクソソームが流れている。
このエクソソームは、産生細胞から別の細胞へ取り込まれることが明らかになり、新たな細胞間コミュニケーションツールとして注目を浴びている。
以前、肺・肝臓・脳において、癌細胞が産生するエクソソームが、癌の未来転移先へ事前に到達してその臓器内細胞へ取り込まれることで、癌細胞が転移しやすい環境を作っていることが明らかにされた。
また、癌細胞由来エクソソームには、肺・肝臓では特定のインテグリン、脳ではCEMIPといった特定のタンパク質が選択的に含まれており、それらが転移先を示す役割をすることで、エクソソームの臓器特異的な分布を規定していることもわかっている。
さらに、癌患者の血中エクソソームのELISA解析を行うと、肺や肝臓転移があった患者の血中エクソソームでは特定のインテグリンが上昇していることが分かった。すなわち、癌患者の血中には癌細胞由来のエクソソームが流れていることになる。
今回、エクソソーム含有タンパク質に注目して、エクソソームのプロテオミクス解析データを用いる機械学習を行った結果、エクソソームをマーカーとして使うことで、癌患者と健常者を分けることができるだけでなく、癌種の特定にも有効であることが明らかになった。
また、癌細胞が産生するエクソソームだけでなく、得られる全てのエクソソームによって癌の有無を確認でき、さらに癌種の特定まで可能であることが見出された。つまり、癌患者の血液には、癌の進行度合いに関係なく癌種別に体内で変化が起きており、それを反映した十分な量のバイオマーカーが存在していることになる。
今回の研究成果は、特に膵臓がんなどの、早期ステージではなかなか見つからないがん種の特定に用いることが期待できると考えられる。
また、原発不明がんの患者の癌種をエクソソームで特定できれば、治療法選択の診断基準となると期待される。
また、エクソソームから得られる情報を用いれば、体内の様々な細胞が癌の存在に対して反応しているサイン全てをバイオマーカーとして活用できるため、見落としの可能性を低くできると考えられる。
今後はさらにサンプル数を増やして分析を行い、癌種についてもさらに幅広く検討する必要がある。
この成果から、エクソソームを用いたバイオマーカーでは、癌種別により体内体で発生している変化をスキャンすることが期待できる。
研究成果は、米国科学誌「Cell(セル)」オンライン速報版で公開された。