胃癌は罹患数・死亡者数の高い疾患である。
胃癌の進展により腹膜播種、リンパ節転移、血行性転移が発生し、予後に大きく関わる。
今回、網羅的遺伝子発現解析の結果、NPTXRという受容体が転移を伴う胃癌の組織中で異常高発現していることが発見され、ゲノム編集技術を用いて胃癌細胞株からNPTXRの発現を人為的に喪失させると、細胞の増殖する能力のみでなく、癌の転移能力が著しく低下することが明らかになることが報告された。
NPTXRの喪失により細胞周期に変化が発生し、癌の悪性度に強く関与するPI3K–AKT–mTORシグナルやFAK–JNKシグナルが不活性化していることが明らかになった。
さらに、さまざまな癌に対して用いられる抗癌剤 5-FU の効果が、NPTXR を喪失させることで上昇した。
これらからNPTXRの受容体を特異的にブロックするモノクローナル抗体を合成し、抗NPTXRモノクローナル抗体は、試験管内で胃癌細胞株の増殖を抑制し、抗癌剤5-FUとの併用で相乗的に上昇した。
また同抗体を、マウスの腹腔内に胃癌細胞を移植した腹膜転移モデルに対して腹腔内投与することにより、胃癌転移の進行を抑制することができた。
NPTXRをノックアウトしたマウスの解析では、生殖、発育、臓器機能、運動認知機能に異常がないことが明らかとなっており、この受容体を阻害することで臓器に重大な影響を与える副作用の危険性は少ないと考えられる。
胃癌症例においても、切除した胃癌組織中のNPTXR発現量は転移や切除後再発を伴っている胃癌で上昇しており、抗NPTXRモノクローナル抗体は、既存の癌治療薬と異なる新しい作用メカニズムを有する治療法となることが期待される。
NPTXR は胃癌の他にも、乳癌、大腸癌、膵癌、肺癌、食道癌などでも高発現しており、抗NPTXRモノクローナル抗体治療法は胃癌以外の癌種にも適用されると考えられる。
本研究成果は、米国科学雑誌「Molecular Cancer」に掲載された。