神経膠芽腫は進行が速いため、発見時には手術ではなく放射線治療が選択される場合が多いが、放射線に対する抵抗性も高く、数年以内に再発を繰り返す非常に予後の悪い疾患である。

現在の標準治療における放射線は、脳の耐容可能な限度に近い線量が用いられているため、使用総線量を増やさずに放射線治療の効率を上げるための基礎生物学的理解とアプローチが必要とされる。

今回、放射線照射後のがん細胞において、細胞内小胞輸送を制御する分子と小胞輸送により分泌される分泌物の変化による膠芽腫の放射線治療抵抗性に関与するメカニズムについて報告された。

膠芽腫の細胞株を用いて、放射線照射による Rab ファミリー低分子量 G タンパク質の遺伝子発現変動をマイクロアレイによって解析し、タンパク質レベルの発現解析、細胞の免疫染色と共焦点レーザー顕微鏡による細胞内分子の観察、膠芽腫患者の遺伝子発現プロファイルの解析、細胞共培養などの実験系による解析を行い、Rab27b の発現を抑制した細胞株を作成し、放射線治療抵抗性への効果、エピレギュリン発現、さらに周辺細胞への影響を検討した。

また、マウスモデルを使用し、脳腫瘍移植及び in vivo イメージング等の実験を行い、Rab27bが関与する放射線治療抵抗性のメカニズムを検証した。

膠芽腫細胞への放射線照射によって、Rab27bの遺伝子発現量が顕著に亢進し、タンパク質レベルにおいても、放射線を照射された細胞ではRab27bの発現亢進が確認された。

これにより、Rab27bの発現を抑制することにより、放射線による治療の効果を向上させることが明らかになった。

さらに、マウス脳への膠芽腫細胞の移植実験において、Rab27bの抑制と放射線照射を組み合わせることにより、脳腫瘍の成長が抑制されマウスの生存期間が延長した。

性質が異なる複数の脳腫瘍細胞株を用いた解析では、悪性度の高い膠芽腫細胞株において Rab27bのタンパク質発現が高いことも明らかになった。

これらの細胞では細胞増殖因子であるエピレギュリンの発現も共に亢進しており、これらのタンパク質の発現量が放射線治療抵抗性と相関することが示唆された。

また、膠芽腫患者の遺伝子発現プロファイルを解析した結果、Rab27b-エピレギュリンの遺伝子発現の亢進は、膠芽腫患者の予後不良との相関が認められた。

2 種類の異なる脳腫瘍細胞株を用いた共培養実験系により、放射線照射後に膠芽腫から分泌されるエピレギュリンが周辺細胞の増殖に与える影響を解析すると、膠芽腫細胞が Rab27b を介して分泌するエピレギュリンは、悪性度が低い脳腫瘍細胞株の増殖を促進することがわかった。

これらのことから、膠芽腫への放射線照射後、Rab27b がエピレギュリンの発現及び分泌を制御することでパラクライン効果をもたらし、放射線に対する抵抗性を強化することが明らかとなりました。

今後、Rab27b-エピレギュリン経路は、膠芽腫の放射線治療後の腫瘍の増殖を抑制し、治療効果を向上させるための新たな標的となる可能性が期待できる。

本研究成果は、Neuro-Oncology Advances誌にオンライン掲載された。