肝臓はあらゆる他の部位に発生したがんから転移する臓器であるが、原発性肝がんは主に肝細胞ががん化した腫瘍性疾患である。

主にC型やB型のウイルス性肝がんや非アルコール性脂肪肝炎などに発生するとこが多いが、病態メカニズムは未だに明らかでない。

一方、がんの診断・治療においては、分泌タンパク質が研究の対象となるケースは極めて多く、肝臓がんにおいてもα-FetoproteinやPIVKAなどの腫瘍マーカーが用いられてきたが、感度は十分でなく有用なバイオマーカーの開発が望まれている。

今回、細胞内にのみ存在すると考えられていたプロテインキナーゼ C デルタ(PKCδ)が、肝がんで特異的に細胞外にも分泌されることが発見され、肝がんの病態に関わる重要な分泌タンパク質であることが明らかにされた。

細胞内タンパク質が細胞外に分泌される「型破り分泌」と呼ばれる現象に着目し、肝がん病態との関係を調べるために、肝がん細胞株の細胞外成分を回収し、プロテオミクス解析を行った。

その結果、肝がん細胞では、リン酸化酵素 PKCδを含めた数多くの細胞内タンパク質が高率に型破り分泌されていることを発見し、肝がん患者の血中の PKCδを測定すると、健常者や慢性肝炎・肝硬変患者に比べて、有意に高値となることが確認された。

また、分泌された PKCδが、肝がん細胞の増殖を促進させることも明らかになった。これらは、型破り分泌が肝がんの病態に深く関わっていることを示唆しており、実際にモノクローナル抗体で型破り分泌された PKCδを阻害すると、肝がんの腫瘍形成能が著しく抑制された。

以上の結果は、型破り分泌を標的とした新しい診断・治療法の開発につながっていくことが期待され、今後、型破り分泌の仕組みをさらに解析することで、肝がん病態がより明らかになると考えられる。

本研究成果は、米国がん学会誌「Cancer Research」のオンライン版に掲載された。