最近、遺伝子編集技術「CRISPR」を用いた治療方法が注目されている。CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeat)は通常「CRISPR-Cas9」を意味し、CRISPR-Cas9は短いRNA鎖と、効率的なDNA切断酵素からなるリボ核タンパク質複合体である。標的DNAを切断する能力はCRISPRを代表する特性である。
例えば、その特性機能により、T細胞として知られる免疫系をリプログラミングすることで癌に働きかけるという方法がある。T細胞は患者の血液から採取され、腫瘍細胞をターゲットとできるよう試験管内で修正・増殖を経て体内に再度注入される。
アメリカでは初めて、CRISPR編集した免疫細胞が患者の体内に取り入れられ、結果として細胞は安全な方法で体内にとどまり、最大9ヶ月間効果を表したという結果が発表された。
ただ、Cas9酵素はDNAの2本鎖を切断するリスクももたらすため、遺伝子に大きな傷がつき細胞は傷を修復する際にミスを犯す可能性がある。このため、より安全性の高い方法で遺伝子を編集する技術の開発が進められている。例えば、Cas9酵素を変異させてDNAには結合するものの、それらを切断するハサミは機能させないようにする技術である。しかし、アクセルだけでブレーキがついていないため、特に臨床に応用するには危険が伴う可能性があり、CRISPRが細胞内に留まる時間が長いほど、本来の標的遺伝子と似たものを誤って切断する可能性が高くなる。この危険性を軽減するために、CRISPRを制御する小さな分子「抗CRISPRタンパク質」のような新たなツールの開発も進んでいる。
このようにCRISPRは画期的な技術ではあるが今後さまざまな改良が必要となると思われる。