癌化学療法としての分子標的治療薬は、投与期間中に比較的高頻度に薬剤耐性を獲得した癌細胞が出現することがわかっている。

このため、次世代型の医薬品として、拡散医薬の開発が進んでいる。

核酸の一種であるmicroRNA(miRNA)は、20-25 塩基程度の内在性のノンコーディング RNA であり、複数の標的遺伝子の発現を抑制する働きがあり、核酸抗癌薬のシーズとして注目されている。

抗癌核酸薬の創薬シーズとなりうる新規の癌抑制型microRNA を同定するため、現在登録されているヒトmicroRNA の約 96%を網羅する 2565 種類のmicro RNA の抗腫瘍効果を多種多様な癌細胞を用いて調べた結果が報告された。

スクリーニングの結果、抗腫瘍効果のきわめて強い 7 種類(miR-1293、miR-876-3p、miR-4438、miR-6751-5p、miR-634、miR-3140-3p、miR-92a-2-5p)が、癌抑制型マイクロ RNAの候補として同定され、さらに、miR-1293、miR-876-3p、miR-6751-5pの 3 種類が、癌治療の創薬の標的として注目されているブロモドメインタンパク質遺伝子 BRD4 を直接抑制していることが明らかになった。

さらに最も抗腫瘍効果の高かった miR-1293をin vitro および in vivo において癌細胞に導入すると顕著な細胞死が誘導され、BRD4 の抑制に加えて、DNA 修復経路に関わる複数の遺伝子(APEX1、RPA1、POLD4)を直接の標的としてそれら機能を抑制することが明らかとなった。

その結果、miR-1293 を導入すると損傷 DNA の修復が抑制され、DNA 障害のマーカーγH2AX が蓄積することも示唆され、また、マウス皮下腫瘍モデルを用いた miR-1293 の治療実験では、腫瘍周囲にmiR-1293 を局所投与すると、miR-1293 治療群において腫瘍の成長が著しく抑制されることが確認された。

これにより、miR-1293 を用いた核酸治療が、難治性癌に対する新たな治療戦略となる可能性があることが期待される。

本研究成果は、国際科学誌 Molecular Therapyにオンライン版で発表された。