膵臓癌は、化学療法や免疫治療が奏功しにくい難治性の癌のひとつである。膵臓癌組織には、コラーゲンなどが増加し硬化するため線維化が起こっていることが多く、上記治療が硬化を発揮できない理由である。
しかし、線維化が進み、悪化するメカニズムや個々の線維化の程度の差異については解明されていない。
今回、膵臓癌患者における線維化の程度を定量し、線維化の癌組織全体に占める割合が、4 割から 8 割まで大きく異なることが明らかになった。
次に、膵臓癌細胞と、線維化に関わる線維芽細胞を異なるさまざまな割合で混合した三次元培養技術を応用して、線維化の程度を自在に変えて膵臓癌組織を試験管内に再構成する方法を確立し、実際のヒト膵臓癌組織で認められるような組織の構造や分子の発現などを再構成した癌組織で再現した。
このようなIN VITROにおける膵臓癌組織の解析を通じ、線維芽細胞が線維を作る時に重要な転写因子である SMAD2/3 と転写調節因子 YAPの協調的な作用が重要であることを発見し、これら因子の機能が制御されているメカニズムを明らかにした。
これにより、癌組織中の線維化を標的とした新たな治療戦略開発に大きく貢献すると期待される。
本研究成果は、英国科学雑誌「Biomaterials」のオンライン版に掲載された。